カンジ(吉川寛治・よしかわ かんじ)編⑤
8巻表紙がカンジです。
【本記事には「ぼくらの」のネタバレを含みます】
関さんを含め、23人のマーカーが集められます。
1人ではいかにもマーカーで、敵に悟られる可能性があるから、と。
コエムシに、23人をハワイの米軍基地に転送してもらい、そこからは陸路で移動する予定。
関さんだけでなく、他に22人をも巻き込んで、そこにレーザー照射する…。
いくらその後自分が死ぬと分かっていても、その人たちを確実に殺す攻撃…。
カンジにとっては辛い作戦です。
この23人は、陸海空の三軍から集められた、ジアースパイロットの志願者達でした。
子供たちに何かあった場合、パイロットが足りなくなった場合、不測の事態への備えでした。
23人のマーカーが、敵に攻撃されたら、作戦自体が頓挫します。
田中さんは「攻撃されないことを祈るしかない」と。
ご都合主義な考えではありますが、全く根拠がないわけでもありませんでした。
核を落とした戦闘機は、攻撃を受けなかったからです。
相手は、通常の形での殺生は避けたいのかもしれない。
或いは、米軍を殲滅して安心しているのかも。
「お手盛りな作戦ではあるけど、反撃はないと思うしかないの」
逆に言えば、反撃されたら一巻の終わり、ということですね…。
マーカーになる23人が、カンジに挨拶に来ます。
「すみません……おれがうまくできなかったばかりに……」
23人のマーカーの最年長と思しき男性が、カンジの謝罪の応えます。
「謝る必要なんてない。我々はこの任務に係われて光栄だ。あまり言いたくはないが、23人のほとんどが特別災害(ジアースと敵ロボットの戦闘)で肉親を亡くしている。自分が大切に思う人を、これ以上失いたくない。そのために賭ける命だ。」
「君は、背負わなくてもいい責任を背負わされた。本当は、私たちがすべきことだった。こんな形でしか君の役に立てなくて、すまない」
読んでて、自然と涙が出てくるシーンでした。
自分のせいで皆さんを犠牲にしてしまう、すみません。
本来君みたいな子供が、地球の命運を背負う必要はなかった。そんなことしかできず、すまない。
各々がお互いを思い遣り、「すみません」と言える。
それぞれ命を懸けているから、死が約束されているからこその境地かもしれませんが、美しい姿勢です。
「寛治君、じゃあ、行ってきます」
関さんはじめ23名が敬礼し、そのまま転送されます。
戦闘開始から、間もなく31時間。
敵の砲撃、73発目を防御。
「並の子供なら無理です」とは、国防省職員(背広組。佐々見さんと同じキャリア官僚でしょうか)の言葉。
やはり、カンジだからここまで戦えた、ってことだと思います。
「田中さん、戦闘に勝ったらお願いがあります。本当は自分の手で沖天楼を壊すつもりだったんですが…。沖天楼は工事に問題があります。親父に、責任を取らせてください。」
自分の手で、ジアースで沖天楼を壊してしまえば、沖天楼自体が残っていないのですから、工事の問題はうやむやになるでしょう。
母親が命懸けで止めようとした、沖天楼の工事。
その問題をうやむやにしないよう、沖天楼を守り、工事の問題に関して、父親に責任を取らせよう。
戦闘前からなのか、戦闘中に考えが変わったのか…。
後のことを田中さんに託し、戦闘に集中するカンジ。
一方、23人のマーカーは予定通り、敵ロボットの急所に近づいています。
ポイント指示器に、核を落とした際の放射能の影響はなし。
『敵に気取られることのないよう…穏やかに…』
気分を落ち着かせるためなのか、歌い出す関さん。
無線を通して、ジアース内の田中さんにも聞こえます。
「歌……歌ってるの…?…もしかして、アニメの歌??」
関さんは「アイドル防衛隊 ハミングバード」を見て感動して、国防軍に入っていますからね…。
ちなみにこの時関さんが歌っているのは、TVアニメ「ぼくらの」のEDテーマ、「Little Bird」という歌です。
いい歌です、うん。
「声が裏返って……ちゃんと歌えてないじゃない……」
恐怖からか緊張からか、声が裏返っている関さん。
その歌声を聞いて、涙ぐむ田中さん…。
「マーカー、配置完了」
関さんから無線が入ります。
「レーザー最大威力で、一点連続射撃!」
田中さんの指示で、レーザーを照射するカンジ。
「どう……なったんだ…?」
「どうすっかな~。オレ様には分かってるがな~。」
もったいぶるコエムシ。
「勝ったぜ。しぶて~な、お前ぇら。」
戦闘が終わった…ということは、カンジに残された時間は、あとわずかです。
カンジに体当たりするかの勢いで抱きつき、泣きじゃくるカナちゃん。
「カナちゃんゴメン、おれ行かなきゃ」
「ウシロ、おれが言ったこと、よく考えろよ」
「マチ……いや、何でもない」
「コエムシ、おれを沖天楼の屋上に転送してくれ」
最後にウシロ、
「おれがここまで付き合った理由、ワクのことだけじゃないからな」
「え? じゃあ…なんだ?」
黙っているウシロ。
「おれ?」
相変わらず黙っているウシロですが、沈黙は肯定、のようです。
「バカ野郎。泣かせるなよ」
ウシロにとって、唯一ともいえる友達のカンジ。
契約していないウシロは、ワクを突き落とした(ような格好になった)ことと、カンジが関わっていたので、ジアースに付き合っていたようです。
沖天楼の屋上に転送されたカンジ。
『この場所に来るのは初めてだ。母さんもここで死んでいったのか…』
『思ったようにはいかなかったな。おれならもっとうまくやれると思ったのに』
『また一人パイロットが足りなくなった…。』
『もうすぐ行くよ…母さん……』
ゆっくりと横になるカンジ。
『次のパイロットは頑張ってくれるだろうか…。カナちゃんじゃない…ウシロじゃない…マチ?…いや、でもマチは……じゃあ、誰だ…?……まさか……』
契約していないはずの、カナちゃんが、
「呼ばれた」
……。
最後まで見事に戦ったカンジ。
かなり劣勢でしたが、ウシロの策もあり、最後はキッチリ勝ちました。
しかし…失ったものも大きかった。
軍がジアースに介入して以降、関さんは田中さんとともに、常にパイロットと一緒に戦ってきました。
それに、未契約者の補填分として、自らも契約していましたから…。
関さんを失ったのは、大きいですね。
そして、次のパイロットはカナちゃん……。
ウシロに止められて、契約しなかったはずのカナちゃんが、なぜ次のパイロットに…?
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