「ぼくらの」あらすじ紹介【ネタバレを含みます】(11.キリエ③~戦う理由~)


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キリエ(切江洋介・きりえ ようすけ)編③

3巻表紙の右側がキリエです。

【本記事には「ぼくらの」のネタバレを含みます】

「もし自分が戦えない時は、殺してください」

キリエの申し出に対し、田中さんは理解を示します。

納得できないのに戦え、というのは酷だと。

キリエは、自身の自己保全意識の低さに言及します。

勉強し、いい大学に入り、いい会社に就職し、より良い伴侶を求め、子孫を残す。

普通の人が普通に考えるであろうことを、自分は考えない。

人として何か足りないのかもしれない。

では、両親や周りの人たちのために戦う、という考え方はどうか。

自己保全の意識同様、周りの人を守る、という意識も低いようです。

最悪、自分が死ぬとなっても、親や兄弟(いる場合は子供も)は

無条件に守りたい、ということもないようです。

自分が守るという周りの人は、果たして他の宇宙を滅ぼしてまで残る価値があるのか。

そう考えているのです。

具体例として、キリエはアクション映画が嫌いだと。

戦闘シーンなどで巻き添えになって死ぬ人が出てくるから。

別にそれはそういう状況になったら、普通にあり得ることだろうし、

そこをあえて避けるのも不自然。

だけど観客は、そういう死には興味を持たない。

主人公やその仲間が死ぬことには、敏感に反応するのに。

そして主人公が、途中で出会った女性と生き残り、結ばれればハッピーエンド。

それが嫌だと。

スクリーンの端で死んでいく人も、主人公の死も、同じ人間の死として差が無い。

そういう「痛み」を知らない人たちを、守って死ぬ意味があるのか。

そう考えているようです。

中学一年生が…ずいぶん独自路線な生命論を持ってますね。

いじめられている自分を守るため、自己保全意識が低くなったのか。

いじめられることの「痛み」を感じにくくするため、

自分の痛みにフィルタをかけ、大局的にものを見ることで、自分を守っているのか。

基本的な視点が主観じゃなく、客観な感じがします。

田中さんはキリエの考えに理解を示したうえで、こう言います。

命は大事というけれども、その命には順番がある。

イルカの死に涙を流しても、家畜が屠殺されることに涙を流す人はいない。

それは、命に順番を付けているから。

命の重さはみな同じ、というのは残念ながらあり得ない。

それでもみな同じと言える人は、自分の命は別に考えているから。

わたしも身内の死と他人の死を比べたら、迷わず他人の死を選べる。

身内の命の方が重いから。

加えて、

人は好む好まざるにかかわらず、生まれながらに犠牲の上に立っている、と。

人間は肉を食い、植物を食らう。

その時点で、他者の命を奪い、その犠牲の上に生きているのだと。

先祖は命を犠牲にして生き、その命が紡がれてあなたが存在している。

つまり、誕生時点ですでに他人の命を犠牲にしている。

その犠牲に見合うだけの業と責任を負っているのだから、それなりの生き方をすべき。

最後にもう一つ、迷ったときはベストを求めるな、ベターを求めろ。

ベストを求めようとすると、そこで立ち止まってしまう。

より良いと思う方を選んでいけば、それほど悪い結果にはならない。

ただ、それは次がある人用の考え方だけど……。

次のないキリエにとっては、酷かもしれません。

ただ、田中さんもそれを分かったうえで、言っているように思います。

キリエなら分かってくれる。

優しいがゆえに、自分の命と他人の命を比較したときに、

自分の命を無くす方を選択してしまう。

そんなキリエだからこそ、自分の周りの人を助ける選択をしてくれる、と。

キリエの中で答えの出ないまま、田中さんとの会話の一週間後、戦闘が開始されます。

ジアースは、相手の地球に降り立ちました。

いじめられっ子のキリエですが、自分の考えを持ち、それを人に伝えられる。

いい大人、それこそ社会人でも、できない人がいるというのに。

いじめられることに関しては、半ばあきらめている様子のキリエですが、

考える力は同年代の子よりもはるかに高いと思います。

田中さんとの話も、ずいぶん高度なレベルだったと思います。

わたしが付いていけてないだけかもしれませんが…。

自分の意見を言い、相手の話を聞いて理解し、それに応える。

それを高いレベルで実践するキリエ。

今はいじめられていますが、社会人になったら変身するタイプじゃないでしょうか。

戦闘を控え、死ぬことが決まっていますが…。

キリエはどんな決断をするのか。

戦えるのか。

期待しましょう。

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