キリエ(切江洋介・きりえ ようすけ)編③
3巻表紙の右側がキリエです。
【本記事には「ぼくらの」のネタバレを含みます】
「もし自分が戦えない時は、殺してください」
キリエの申し出に対し、田中さんは理解を示します。
納得できないのに戦え、というのは酷だと。
キリエは、自身の自己保全意識の低さに言及します。
勉強し、いい大学に入り、いい会社に就職し、より良い伴侶を求め、子孫を残す。
普通の人が普通に考えるであろうことを、自分は考えない。
人として何か足りないのかもしれない。
では、両親や周りの人たちのために戦う、という考え方はどうか。
自己保全の意識同様、周りの人を守る、という意識も低いようです。
最悪、自分が死ぬとなっても、親や兄弟(いる場合は子供も)は
無条件に守りたい、ということもないようです。
自分が守るという周りの人は、果たして他の宇宙を滅ぼしてまで残る価値があるのか。
そう考えているのです。
具体例として、キリエはアクション映画が嫌いだと。
戦闘シーンなどで巻き添えになって死ぬ人が出てくるから。
別にそれはそういう状況になったら、普通にあり得ることだろうし、
そこをあえて避けるのも不自然。
だけど観客は、そういう死には興味を持たない。
主人公やその仲間が死ぬことには、敏感に反応するのに。
そして主人公が、途中で出会った女性と生き残り、結ばれればハッピーエンド。
それが嫌だと。
スクリーンの端で死んでいく人も、主人公の死も、同じ人間の死として差が無い。
そういう「痛み」を知らない人たちを、守って死ぬ意味があるのか。
そう考えているようです。
中学一年生が…ずいぶん独自路線な生命論を持ってますね。
いじめられている自分を守るため、自己保全意識が低くなったのか。
いじめられることの「痛み」を感じにくくするため、
自分の痛みにフィルタをかけ、大局的にものを見ることで、自分を守っているのか。
基本的な視点が主観じゃなく、客観な感じがします。
田中さんはキリエの考えに理解を示したうえで、こう言います。
命は大事というけれども、その命には順番がある。
イルカの死に涙を流しても、家畜が屠殺されることに涙を流す人はいない。
それは、命に順番を付けているから。
命の重さはみな同じ、というのは残念ながらあり得ない。
それでもみな同じと言える人は、自分の命は別に考えているから。
わたしも身内の死と他人の死を比べたら、迷わず他人の死を選べる。
身内の命の方が重いから。
加えて、
人は好む好まざるにかかわらず、生まれながらに犠牲の上に立っている、と。
人間は肉を食い、植物を食らう。
その時点で、他者の命を奪い、その犠牲の上に生きているのだと。
先祖は命を犠牲にして生き、その命が紡がれてあなたが存在している。
つまり、誕生時点ですでに他人の命を犠牲にしている。
その犠牲に見合うだけの業と責任を負っているのだから、それなりの生き方をすべき。
最後にもう一つ、迷ったときはベストを求めるな、ベターを求めろ。
ベストを求めようとすると、そこで立ち止まってしまう。
より良いと思う方を選んでいけば、それほど悪い結果にはならない。
ただ、それは次がある人用の考え方だけど……。
次のないキリエにとっては、酷かもしれません。
ただ、田中さんもそれを分かったうえで、言っているように思います。
キリエなら分かってくれる。
優しいがゆえに、自分の命と他人の命を比較したときに、
自分の命を無くす方を選択してしまう。
そんなキリエだからこそ、自分の周りの人を助ける選択をしてくれる、と。
キリエの中で答えの出ないまま、田中さんとの会話の一週間後、戦闘が開始されます。
ジアースは、相手の地球に降り立ちました。
いじめられっ子のキリエですが、自分の考えを持ち、それを人に伝えられる。
いい大人、それこそ社会人でも、できない人がいるというのに。
いじめられることに関しては、半ばあきらめている様子のキリエですが、
考える力は同年代の子よりもはるかに高いと思います。
田中さんとの話も、ずいぶん高度なレベルだったと思います。
わたしが付いていけてないだけかもしれませんが…。
自分の意見を言い、相手の話を聞いて理解し、それに応える。
それを高いレベルで実践するキリエ。
今はいじめられていますが、社会人になったら変身するタイプじゃないでしょうか。
戦闘を控え、死ぬことが決まっていますが…。
キリエはどんな決断をするのか。
戦えるのか。
期待しましょう。
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