「自殺島」(作者:森恒二さん)第6巻あらすじをご紹介するもので、ネタバレを含みます。
第五十一話 動き出した闇
サワダが来た翌朝、カイと行動を共にしていた「さおり」が首を吊った状態で見つかりました。
いつもの様に埋葬しようとしますが……スギがあることに気付きます。
リョウ・セイ・トモの3人を連れ、「人に聞かれたくない話」を始めます。
「さおりは他殺だ」
さおりが首を吊る直前まで一緒にいたカイが、「一緒に死のう」とさおりを連れ出し、決心のつかないさおりの首を絞めたのです…。
ロープの跡の向きが、上向きでなく水平だった。
スギの未遂は「首吊り」だったからこそ、判明した事実。
カイに真相を尋ねようとする4人は、廃校に戻ります。
その頃、いつものように廃校の屋上にいたマリアに
「さおりのこと考えてた?羨ましいと感じないか?逝けた彼女が……」
マリアに向かうカイの囁きは、「悪魔の囁き」でした……。
第五十二話 正体
海から廃校への帰り道、セイはトモに尋ねていました。
49話でカイについて行く男女を見て「危ないかも」と言った真意を。
トモもカイに話を聞いてもらっていたのです。
先の見えない島での生活、絶えることのない問題、自分の身体と性の不一致……トモの抱えていた悩みは、とうに限界を超えていました。
そんな時、話を聞いてくれたのがカイだったのです。
優しく理性的で、親身になってくれたカイに、依存するようになったトモ…。
しかし、カイの出す答えはいつも「終わり」だったのです。
「充分頑張った、楽になっていい」
「無理しなくていい」
「終わりを怖がらなくていい」
「一緒に逝ってあげる」
カイを信じたい気持ちと、もしかしたらという気持ちが、セイの中で駆け巡ります。
もうすぐ廃校に着くという所でセイとトモが目撃したのは、屋上に2人でいるカイとマリア。
「僕なら一緒に逝ってあげるよ」
マリアにも悪魔の甘言を囁くカイ……。
第五十三話 混乱
数日間、カイの様子を見ていたセイ。
その視線は、カイ自身も感じていました。
「話がある」
というセイに、素直に従うカイ。
最初こそ「死への誘惑」を否定していたカイですが、「何がいけないんだ?」と態度を豹変させます。
「元々自分たちは『未遂者』、死ぬはずだった人間、死にたい人に『それでいい』と言うのは罪なのか?」
人の命は、たくさんの命の上に成り立っている、というセイの反論に対しても
「人のエゴ・欲望が地球をどう変えた?すべての命が大切なら、地球上で邪魔なのは間違いなく人間だ」
カイの意見に押されるセイ…。
と、廃校の方から悲鳴が聞こえてきます。
慌てて駆けつけると、港側のグループリーダー・サワダと仲間数名が、廃校グループの女性を襲っていました。
「ナオを返さないなら、他の女をもらっていく」
戦力的に不利な廃校グループでしたが、リョウ・スギ・リュウ(第十二話で他の男性をケンカの末、殺してしまった男)が駆けつけ、一転廃校グループが有利な状況に。
「ここでこいつを殺ってケリをつけよう!」
というリュウに対し、リョウの出した答えは……。
「帰ってくれ……」
第五十四話 港側集落
港側のグループとは、遠くない将来戦いになる…。
「覚悟を決めなければ」とするスギ。
好戦派のリュウは、「やれる時やらなきゃ…仲間を守れないぜ!?」
前話で「帰ってくれ」とサワダらを返してしまったリョウを責めます。
サワダの目的がナオなら、ナオに出て行ってもらえばいいとする女性陣に対し、ナオは絶対に渡さないとするケン…。
結論が出ない中、
「奴らの集落に話し合いに行く」
というリョウ。
もとは同じ「未遂者」、理由はどうあれ全員が同じ傷を持っている。
話し合いで方が付くことを期待するリョウですが…。
港側の集落に行くメンバーは、リョウ・セイ・スギ・ミノルの4人。
集落に着き、廃校グループの顔を見るや否や…
「奴らだぁ!!奴らが仕返しに来たぞぉぉ!!!」
「話し合い」どころではない雰囲気です……。
第五十五話 交渉決裂
「奴らが仕返しに来たぞぉぉ!!!」
その声で出てきたのは、港側のグループリーダー・サワダ。
すぐに争いになるかと思いきや、サワダが提案してきたのは「代表者同士での話し合い」。
リョウとサワダによる、サシの話し合いです。
しかしその雰囲気に「危険な何か」を感じたセイは、1人山に忍びます…。
しばらくお互いの集落の近況を話した後、本題の「ナオ」の話題になると、一気に雲行きが怪しくなります…。
どう生きるかはあくまで個人の自由とするリョウに対し、
「自分は王様。ここはオレが作った国」
だとするサワダ。
ナイフを取り出し、リョウに斬りかかるサワダ。
「交渉決裂だ~!殺るぞ!」
サワダの号令と共に、仲間が集まります。
「話し合い」のため、少数で来たことが裏目に出て、リョウが刺し殺されそうに…。
と、山から弓矢一閃。
「リョウを解放しろ。動いたら射る!」
危険を察知したセイの判断で、リョウは助かるのか……。
第五十六話 逡巡
リョウを羽交い絞めにし、近くにいた手下にリョウを刺すよう命じるサワダ。
「動いたら射る」としながらも、心の中では
『頼む…!下がれ……下がってくれ……!!』
決して人を射ることは望まないセイ。
しかしセイの願いに反し、じりじりとリョウに近づくサワダの手下……。
吉村を「殺し」、その罪の意識に苛まれたセイは、なかなか矢を射ることができません。
しばしの逡巡の後、
「セーーーイ!!!リョウを失うわけにはいかない!!頼む、セイ!!頼むーー!!!」
スギの叫びに応じて矢を射たセイ。
その矢は………サワダの手下の太ももに刺さります……。
リョウを羽交い絞めにし、どうせ射ないと高を括っていたサワダ。
即座にリョウを放し、物陰に隠れます。
「言っただろう!!山鳥を射るより簡単だ!動けば殺す!!」
『頼む……引いてくれ…分かってくれよ……』
「仕掛けたのはそっちだ!もう話をすることはない!僕らはもう君たちに関わらない!君たちも関わるな!!」
表向きの威勢と、心の中の弱音……。
セイの活躍により、廃校グループは危機を脱し、廃校に帰還します。
第五十七話 訪問者
「人を射るとはね……すごいよ、君は……」
廃校に帰還したセイに声を掛けたのは、カイでした。
居た堪れず、狩りのために1人で山に入るセイ。
山と獲物と自分だけの世界に入り込み、心地よさを感じる……。
『このまま森の奥深く、同化していってしまいたい……すべてを捨てて……』
サワダの手下を射た自分を、責めるセイ。
『今は迷うな』
無事にシカを射止めたセイは、「狼煙」を使ってケンを呼びます。
干し肉を作るため、山頂の小屋にシカを運ぶと、そこにはトモとマリアの姿が…。
ケンを揶揄うトモ、何気ないやり取りを見て笑うマリア。
第四話で、一度はセイと一緒に廃校の屋上から飛び降りようとしていたマリア。
それ以降も普段から無表情で、あまり感情の起伏を見せないマリアの笑顔。
『必死に…皆を必死に守ろうとしてよかった…』
自分のやったことが間違いでなかったと、報われたセイ……。
第五十八話 山小屋の二人
「皆には今日中に肉を持って帰る」
と約束したため、すぐに下山しようとするケンとトモ。
一方セイは、干し肉や燻製を作るために人手が欲しいと。
「私が残るよ」
夜にはセイと2人きりになるわけですが……セイの頭の中を「?」がぐるぐる回ります。
勘のいいトモがケンを急かし、生肉を持って先に下山。
山小屋に残ったセイとマリアは、早速作業に入ります。
日が陰り、寒さを感じるマリアのため、セイと同タイプの「マント」を拵えるセイ。
「あ……ありがと……」
マントを着ようとしたマリアに、セイは衝動が抑えられません。
マリアに抱きつき、そのまま押し倒すセイ。
「いいよ……我慢、できるから……」
マリアの見せた表情は、第三話、廃校で過ごした初日に複数の男性に襲われそうになった際に見せた、「諦め」の表情。
『あの男らと同じことを……』
自分の愚かさに気付き、その場を立ち去ろうとするセイを、「行かないで!!」マリアが止めます。
そしてマリア本人の口から語られる過去……。
第五十九話 悲愴
「私は…養父の人形だった…」
自身の過去を語り始めるマリア。
ものごころついた頃には不仲だった両親。
家を空けがちになる父と、故郷・ロシアに帰ったまま、戻らなくなった母…。
父の親戚の裕福な家に預けられたマリアを、養父は温かく迎えてくれた。
優しい養父に心を許したマリアでしたが、ある日「事件」が起きます。
友達には「お父さんと一緒にお風呂に入るのは変だ」と言われる年頃のマリアでしたが、養父はそれを許しません。
許さないばかりか……マリアの身体を弄んできたのです、毎日、毎晩。
心と身体をバラバラに切り離し、息を殺して自分を殺して、やり過ごすことしかできなかったマリア。
義務教育が終わると、養父にとって「魅力的な歳」ではなくなったのか、家を出ることを許されたマリアは、仕事をし、生活をし、徐々に友達ができます。
親しい男性も出来はじめ……いざ一つになろうとすると、養父の呪縛から逃れられていないことに気付かされます。
心と身体を切り離し、無機質な「人形」になってしまうマリアから、男性たちは去って行ってしまいます。
慣れない登山と、自分の過去を話した疲れで、フラフラになるマリア。
イキルを側につかせ、マリアを寝かしつけたセイは1人、森の中で号泣するのでした……。
第六十話 名前と誓い
夜が明け目覚めたマリアは、まだ眠っているセイの顔をじっと見つめます。
『この人と、一緒にいたい』
そう考えるマリアですが、同時に養父の呪縛から解き放たれていないことが、頭を過ります。
燻したシカ肉を小屋にあったボックスに入れ、2人で担いで運びます。
「行こうか……マリア」
昨夜聞いたマリアの名前を呼びますが、その名は同時に過去を思い起こさせます。
「ごめんなさい…その名前でもう呼ばないで…」
思えばボウシも、自分の名が「好きじゃない」ので「ボウシって呼んで」と言っていました。
名前は、未遂者によっては過去を思い起こさせる嫌なものなのです。
迂闊に名前を呼んでしまったことを後悔するセイ。
そして下山の道中、マリアをどう呼べばいいか、ずっと考えていたセイ。
「リヴ……よければそう呼んでいいかい?僕と…イキル、同じ名前なんだ…」
「……呼んで……呼んで、何度でも……呼んで欲しい、私……セ…イ……」
リヴの涙を見て、彼女の呪いが解けるまで、何度でもその名を呼ぶことを誓うセイ……。
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