マチ(町 洋子・まち ようこ)編②
この記事には「ぼくらの」のあらすじをご紹介するものであり、ネタバレを含みます。
10巻表紙がマチです。
マチの提案で、今まで戦ったみんなの、残された人達のところをまわる、ウシロとマチ。
佐々見さんたち国防の手助けを断り、コエムシの転送も使わず、電車やバス、自分たちの足で。
もちろん、遺族の住所は佐々見さんに教えてもらい、護衛もついている。
『でもそれでいい。
だって、まだほんの子供なんだから。
できることを、できる範囲で、ちょっとだけ背のびをして。』
初めに訪れたのは、最初のパイロットであるワクの家。
ワクの両親は、ワクの死以降、家にこもりがち。
自然学校参加者のリスト流出後は、それが顕著だと。
父親は会社を休職中。
まだまだ、「ワクの死」から立ち直れていない様子の、ワクの両親。
そんな雰囲気を察してか、インターホンを押すのを躊躇うウシロ。
「おまえが押せ。」
「いいけど…いいの?」
「だって、おまえだってみんなを契約させた責任あんだろ!?」
「あんた何言ってんの!?あんたが罪悪感抱いてんじゃないかと、優しく言ってやってんのに…」
玄関前で騒々しくしているところを、ワクの父が気付いて玄関を開けます。
ウシロとマチの、こういうやり取り好きです。
ウシロはずっと、「おれは関係ない」的なスタンスで、みんなと一線をおいていたところがありましたからね。
物語が進むにつれ、徐々に「自分」を出すようになったウシロ。
そして、ワクを「突き落とす」格好になった(実際は、ウシロが小突いたときには、ワクは死んでいた)ウシロに、「あんたが罪悪感抱いてんじゃないか」とかズケズケ言っちゃうマチもいいです。
「お待ちしていました。」
あらかじめ連絡を受けていたワクの父親は、2人を招き入れます。
「あたし町洋子です。」
「ぼくは宇白順です。」
『ぼく!?』

マチは、ウシロと兄を重ねているところがありますからね。
ウシロにしても兄(コエムシ)にしても、「おれ」「オレ様」が一人称。
「ぼく」という当たり前な一人称にも、違和感を感じたのでしょう。
「世間に迷惑をかけてる怪獣に、隆(ワク)が関わってたなんて…
あの子は何か、悪いことをしませんでしたか?
政府の人に聞いても、『そんなことはないから安心しろ』の一点張りで…」
自分の子供の理不尽な死より、その行動による影響を心配する、ワクの母。
「ワクくんは…ただの被害者です!
あたしがワクくんを殺したんです!!」
マチは、コエムシ、ココペリと同じで、「今いる地球」の人間ではありません。
「自分たちの地球」の戦闘を終え、「今いる地球」が次の戦いに選ばれたから、そのパイロットを探す手伝いをしていて、自然学校の子供たちを、洞窟に誘った。
ジアースと子供たちとの、契約の手引きをしたわけですね。
その罪悪感から、「あたしが殺した」ととっさに言ってしまったのでしょう。
察したウシロが、ワクの両親に説明します。
「ぼくらは自然学校近くの、海岸の洞窟に行ったことから、偶然この事件に巻き込まれました。
そこへ誘ったのがこの子で、それで今でも責任を感じてるんです。
ワクくんは、正義感の強い立派な奴でした。
ワクくんが最初に模範を示してくれたから、僕らは今まで敵性怪獣を倒してこれたんです。」
マチのことは隠しながら、他は本当のことしか言っていません。
それがワクの母にも通じたのか、安堵の涙を流す、ワクの母。
「ワクの普通なら、語るに値しないエピソードでも、この2人(ワクの両親)にはかけがえのないもの」だろうからと、これまでの話をする2人。
特に自然学校の話。
マチが驚かされたのが、ウシロの観察力と記憶力。
マチがすっかり忘れているようなことまで、まるでメモが取ってあるかのように、覚えてたウシロ。
『普段、他人に全く興味が無いように、振る舞ってるくせに…』
ワクの家の泊ったウシロとマチは、翌日別の遺族に会うため、ワクの家を発ちます。
2人の歩く背を見ながら、ワクの両親が話します。
「あれが、本当にもうすぐ死ぬ子供なのか?
あんなに気丈に、振る舞えるものなのか?」
「立派じゃなくてもいいのに…
どんなにみっともなくても、生きていてくれた方が…」
「あの子たちは、残り少ない貴重な時間を割いて、おれ達のために来てくれたんだ。
わかるか?
それはとてつもないことだよ。
そんななのに、生きてる俺たちは、どうしていかなくちゃならないんだろうな…。」
「あんた、『ぼく』って言ってたね。」
「言ってねえよ。」
ちょっとムキになるウシロ。
「ぼく、ぼくら、
あたしたちはそんなに長く一緒にいたわけじゃないし、別にまとまってるわけじゃないけど、
でもこんな状況だから、ウソでもいいから一体感が欲しいよね。
ぼくら、ぼくらの、ぼくらの--」
「ぼくらの」というタイトルになっている言葉、作中で出てきたのはこれが初めてだと思います。
「で、その後は?なんて続くんだ?」
「人それぞれでいいんじゃない?
どうせまとまりのあるメンツのわけじゃなし。」
「一体感はどうしたんだよ。」

やっぱこの2人、ウシロとマチのやり取りはいいですね。
みんなの「残された人達」をまわる旅は、まだ続きます。
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