羌瘣
羌瘣の、命を賭けた「禁術」によって、何事もなかったかのように、むっくりと起き上がる信。
一度は「死んだ」とあきらめていた飛信隊。
歓喜の渦に包まれます。
尾平、渕さん、楚水、我呂、崇原、田永、みんな。
そして河了貂。
泣きながら信に抱きつき、その生還を喜びます。
こういうとこ見ると、貂ちゃん可愛いな~、って思いますね~。
はぁ、我ながらキモいキモい。
一方羌瘣。
また、天地の間から戻ってきません。
…迷子になっています…。
困っている羌瘣の前に、象姉。
「この禁術は、自分の命を使って人を助ける技で、本来蚩尤族の奥儀とは真逆にあるから、誰も使えないはずなの。
使えないから『うそっぱち』とされてた。
でも、あんたは使えた。
あの男のために。」
「そんなに命がけで、男を好きになることがあるんだね。
しかもあの瘣が。
いつからそんなに好きだったのよ、あの男を。」
「私はただ、戦う仲間だから…」
「じゃー、出っ歯の人が死んでも、禁術使ったの?」
「いや…それはないかな…」
正直で残酷です。羌瘣。
「いつからあの男を好きだったのよ~?
好きってのがピンと来ないなら、『気になる』でもいいから。
いつからそんな感じだったの?」
「それは割と、会ってすぐくらいからだったかも」
あっけらかんとすごいことを…やっぱ可愛い、羌瘣。
最後に象姉から。
悪いこと一つと、いいこと二つ。
悪いことは「羌瘣の寿命が縮んでしまった」こと。
禁術による代償で、もう二度とこの禁術は使えない。
他の術も使えないかも。
弱くなったかもしれない。
今までの強さが桁外れでしたから…多少弱くなってもまだまだ大丈夫でしょうが…。
しかし、そのことに対して後悔は全くない羌瘣。
もう時間がない。
二つのいいことっていうのは…。
再始動
目を覚ました羌瘣。
助けられたことはよく覚えていないものの、信に「ありがとな、羌瘣」と感謝されます。
「……別に、大したことはしてない。ゴホ」
違和感を感じる信。
王翦本陣から、蒙恬と王賁が駆けつけます。
急いで李牧を追うために。
涙を拭いて、軍師モードに戻る貂。
「まだ戦争中だ!
信はもう、いったん大丈夫だ!
騎兵は騎乗して!
小隊から作れ!
すぐに動くぞ!」
副長の楚水も気を取り直し、
「飛信隊、再始動だ!」
信は、蒙恬から戦況を教えてもらいます。
「李牧に逃げられたっぽい」こと。
飛信隊の近くにいた亜花錦が李牧を追っているが、未だ吉報はないこと。
李牧が退却した後、残された趙軍も各所で一斉に退却していること。
左軍、右軍、そして中央軍も。
それはつまり、趙軍の全軍撤退。
李牧の狙いは、散開した軍を再集結しながらの、鄴の開放。
楽華隊、玉鳳隊、飛信隊にも、王翦将軍から李牧追撃の指示が下るはず。
「だから、一回ここで喜んどこーか、信」
「とにかくまずは、この十五日間に及んだ、朱海平原の戦いは俺達の勝利だ!」
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