「死役所」第16巻のあらすじをご紹介します。ネタバレを含みます。 16巻に収録されている5話です。
第73条 白神靜佳①
「おっ、神様の子!」
「なぁ、おめ神様の子だど?おえらえのかっちゃがら聞いだど、神様の子って何だべ」
「人でねながー?」
「日曜日お祭りだがら、見にこねが」
振りむいたのはセーラー服姿の美少女…シラ神さんですね。
お待ちかね(少なくとも私は待ってました)の、シラ神さん回です。
第64条「死んでからしたい10のこと」のご紹介時に、少しだけシラ神の過去が出てきましたが…。
たった一コマでしたからね。
今回から3回にわたって、シラ神さん回のようです。
「薄幸の美女」を絵に描いたようなシラ神さん。
死役所に勤めてるということは、死刑囚なわけで…。
どうして死刑になったのか、非常に気になっていました。
やっと、その謎が解明される時が来たわけですね。
時代背景は…昭和20年代後半~30年代前半といったところでしょうか。
白神さんの中学生時代。
言葉にだいぶ訛りがありますね。
同級生の男の子2人が誘われた、件の「日曜日のお祭り」。
現れたのは1人だけですね。
同じ中学でも、シラ神さんの村まで1時間かかるそうで、もう1人は途中で脱落したようです。
1時間の道のりを諦めず、シラ神さんのもとまで来た「徹也」くん。
しかし、肝心のシラ神さんがいません…。
「靜佳だば、あの中だ」
「灯明(とうみょう)の蔵」と呼ばれる、藁を組んで円柱型の蔵の中に、シラ神さんはいました。
この村の女の子は、14歳になると神様との結婚に向けて準備を始める。
その「拝婚の儀」が行われる祭りなのです。
神様と結婚する=男性と結婚しない
ではないのです。
修道女(シスター)とは違うようですね。
神様は姿が見えないから、男性に宿る。
その男性と結婚する=神様と結婚する
なのだそうです。
地方地方で、色々な歴史・思想がありますからね。
シラ神さんのお母さんは、「神様の宿った男性」と結婚した。
その子供だから「神様の子」というわけですね。
いよいよ祭りのクライマックス。
「灯明の蔵」に火を付けます。
もちろん中にいたシラ神さんは、火が回る前に外に出るわけですが、それを知らない徹也くん、「まだ中さ人が、靜佳!」
と声を掛けたところで、シラ神さんが蔵の外出ます。
髪飾りを着けた、巫女衣装のシラ神さん。
頬を赤らめ、見蕩れる徹也くん。
翌日、シラ神さんに祭りの感想を聞かれた徹也くん。
「きれいだった…火がっ!『灯明の蔵』が燃えてっ!火がキレイだった!」
慌ててごまかす徹也くん。
自分が蔵から出てこないうちに火がついたとき、心配してくれたことを感謝するシラ神さん。
お互い、好意を持っているようですね。
あからさまな感じでなく、淡い恋心っている感じ。
若いっていいですね…。
自宅でのシラ神さん。
お母さんとお祖母さんに厳しく躾けられている様子。
特にお祖母さんは、厳しいようです。
縫い物の縫い目が悪い。
縫い物をしている時の姿勢が悪い。
叱られた時の返事に対し、「返事をすればいいと思ってるのか」。
その度に竹尺で叩かれます。
「神様はいっつも見守ってけでるんだ、しょしど思わねのが!」と。
しょし=恥ずかしい、ですね。
東北でも山形、秋田、青森あたりの方言だったと思います…シラ神さん美人ですし、秋田の方でしょうか。
お祖母さん、祭りに来ていた「徹也くん」のことを尋ねます。
「靜佳のいい人なのか」と。
家の犬が田んぼに落ちたから助けたら、知らない犬だったけど助けたからには、と2匹とも飼うことにしたからいい人だ、と答えますが、お祖母さんが聞きたいことはそういうことではありませんね…。
天然なんですね、シラ神さん。
可愛らしいです。
お祖母さんから、以下のことを言い付かるシラ神さん。
これから毎日、神様に挨拶に行くこと。
どうか私を嫁にしてください、と。
恋人ができたら、月に一度は連れてきて、一緒にお参りしなさい。
どうかこの男性に(神様が)宿ってください、と。
ずいぶん、信心深いお祖母さんなんですね。
素直にわかりました、と頭を下げるシラ神さん。
「神様と結婚する」ために、お花に三味線、礼儀作法や料理、裁縫、舞踊も習うシラ神さん。
徹也くんとも、徐々に心の距離が近づいていきます。
(※原作のシラ神さん、徹也くんの会話は方言ですが、標準語でお送りします)
「本当に結婚するのは、神様じゃないだろ?だって神様は見えないから」
「それでも神様は神様」
「おれと結婚したら、靜佳の夫は、神様じゃなくておれだろ?た、例えばだぞ!」
「例えば結婚したとして…徹也くんは白神の家に入ってくれるの?」
「田中より白神の方が格好いいだろ」
頬を染め、にっこりと笑うシラ神さん。
時代も時代だし、田舎だし、婿入りなんて次男以降でないと難しそうですが…。
長男ではないんですかね?徹也くん。
時は流れ、シラ神さんの『いい人』になった徹也くん。
シラ神さんは、お祖母さんの言いつけ通り、徹也くんを連れて、神様にお参りします。
『徹也くんに宿ってください。私と結婚してください』
「同じ男として、お父さんの話を聞いてみたい。神様が宿った話」
「お父さんは私が小さいときに亡くなってるから… お祖父さんなら話が聞けるけど」
野良タヌキを見つけた徹也くん、けもの道を走って逃げる、タヌキの後を追いかけますが…。
「そっちは駄目っ…」
徹也くんの手を引き、シラ神さんが止めます。
「お祖母さんから行くなって言われてるの」
「崖でもあるのかな…?」
徹也くんの後姿を見て、何かを思い出すシラ神さん。
「なぁ、お父さんはどんな人だった?」
「それが、よく覚えてなくて…」
「写真はないの?」
「写真嫌だったみたい。仏壇にも飾ってないの」
「どうして死んだの?」
「事故みたいだけど…」
シラ神さんのお母さんと、お祖母さんの会話。
「ちゃんと一緒にお参りしたみたいです。毎日お参りするくらいで大丈夫かしら…」
「神様はちゃんと分かってくれる」
「だけど…あれは人殺しの子…」
「やめなさい!!大丈夫、私とあなたしか知ってるものはいない…」
最後の『人殺しの子』ですよね。
シラ神さん自身が「人殺しの子」なのか、或いはお母さん(もしくはお祖母さん?)が人殺しで、「人殺し」の子、なのか。
おそらく前者なんでしょうが…。
そして、殺した相手というのが…お父さんなのかなぁ、と。
あくまで推測ですがね。
あとは、自覚があるかどうか、ですよね。
そういう描写がないので、「殺すつもりで殺した」と言うことではないでしょうが、「結果的に」殺してしまった、とか。
辛い思い出なので、無意識にその記憶を封印しているとか…。
第74条 白神靜佳②
死役所。
セクハラ絡みで、ひと悶着あったようです。
加害者は竹シタさん。
被害者はシラ神さん。
どうやらお尻を触られたようです。
加害者の竹シタさんを、ニシ川さんが「バインダーで思い切りぶっ叩いた」ようですが…。
死役所を訪れる「死者」が痛みを感じないように、死役所職員も痛みを感じないようです。
「口惜しい」と悔しがるニシ川さんに対し、シラ神は
「…私は大丈夫です。ご心配をかけして…ごめんなさい…」
深々と頭を垂れます。
「ホント自己否定感強いですよね。昔からあんなだったんですかね」
「いえ、明るい性格だったようですよ」
「じゃあやっぱり、人を殺した罪悪感でああなったんだ」
「そうかもしれませんねぇ。きっかけ1つで人は変わるものですから」
「シ村さんて職員の内情に詳しいですよね?もしかして全員分の人生史読んでるんですか?」
「いえいえ」
『冤罪の癖に職員になって、総合案内を希望して他の職員の内情調べて、毎日ウロウロ……暇人?』
ひどい思われ様ですね。
ただ、もしかするとこのあたりにも、ヒントがあるかもしれませんね。
「総合案内を希望した」ことに理由があるとしたら、死役所を訪れた人に、最初に接触する可能性が高い。
誰よりも先に、亡くなった「ある人」に会いたい…。
やっぱり奥さんの「幸子さん」ですよね?
職員の内情は……以前ご紹介した「松シゲさん」のように、「加護の会」関係者がいないか、探しているんでしょうか…?
さて、本編はシラ神さんの生前のお話に戻ります。
中学の同級生、「徹也くん」との結婚です。
屋外、神前で行われる結婚式。
シラ神さんを厳しくしつけるお祖母さんも、もちろん出席しています。
※前回同様、登場人物のセリフが方言を忠実に再現されてますので、ここでは読みやすいように、標準語に訳してお届けします。
「もうすぐだ……もうすぐ祝言が終わる……神様は分かってくれたんだ。神様の子を産んでいいんだ…。私たちの土地の神様よ…この新しい夫婦のもとに、夫のもとに宿ってください…」
そう願っているときでした。
突然大きな地震が。
けが人などの被害が出るような大きなものではありませんが、参列者からは「晴れの日に縁起の悪い…」と言う声も聞こえます。
悔しいような、焦りを隠せないような、シラ神のお祖母さん。
結婚式も終わり、無事に白神家に入った徹也くん。
改めてお祖父さん、お祖母さんとお母さんに挨拶します。
「お前は体つきがいいから、頼りになりそうだなぁ。辰男はヒョロヒョロで不器用だったからなぁ~」
お祖母さん、お母さんに睨まれるお祖父さん。
辰男=シラ神さんのお父さん、なのでしょう。
亡くなったお父さんの話は、白神家ではタブーに近いのでしょうか…?
慌てて話題を変えるお祖父さん。
「お前たち、子供作るんだろ?男の子が生まれたら、男3人、女3人で数もちょうどだなぁ。でも女の子も可愛いしなぁ。」
その話を遮るお祖母さん。
「お前たち、子供を作っては駄目だ。」
「神様の子…産まないの?どうして?」
「靜佳にはその器がないからだ」
「私、お努め頑張ったよ?」
「あれくらいで頑張ったとか、よく言えるね!子どもなんか作ったら、私が殺してやる!分かったね!!」
「はい…」
「子どもなんか作ったら、私が殺してやる!分かったね!!」
厳しくお祖母さんに言われたシラ神さん。
徹也くんも不思議がります。
「お祖母さん…どうしたんだろう?」
「分からない…お努めが足りなかったのかな…?」
「けど、裁縫も料理も完璧だし。何が足りないのか分からないけど、何分相手が神様だしなぁ…」
話は、徹也くんがもう一つ気になったことに。
「辰男さんって、お父さんのこと?話避けてたみたいだけど、話題にしたらよくないのかな?」
「よくないことはないと思うけど…確かに話題には上がらない…」
父を思い出そうとするも、やはり思い出せないシラ神さん。
「ねぇ、徹也くん。お祖母さんに認めてもらえたら、子供作ろうね」
「そうだな、でもおれは子供いなくてもいいよ。おれの子じゃなく、神様の子だし」
婿入りした徹也くんは、お祖父さんの仕事を手伝います。
林業のようですね。
お祖父さんに連れられて行った場所は…シラ神さんが「お祖母さんから行くなって言われている」場所でした。
「お祖父さん!ここ、危ないとこでしょ?入っていいんですか?」
「辰男…靜佳の父親がな、ここで死んだんだ…そこの池だ。足を滑らせて池に落ちて、そのまま…気を付ければ何の問題もない、行くぞ」
夕食時、徹也の仕事ぶりを褒めるお祖父さん。
すると、地震が…。
「祝言の時よりは大きくなかったな」
「あの時は大きかったねぇ」
「今年は台風も来たし、災害に当たる年だなぁ。稲も全滅したって。」
「他人事みたいに言うな!」
お祖母さんがシラ神さん、徹也くんを叱ります。
「村の人間、みんな参ってるんだ。靜佳、お前はいつまで経っても成長しないね。そんなことだから、神様の子を産めないんだ」
寒さも厳しくなってきたある日、シラ神さんが外で掃き掃除をしていると、土間からお母さんとお祖母さんの話声が聞こえてきます。
「だけど、お母さんもそう思ったから、子供を作るなって言ったんでしょ?」
「神様が許してくれたら作れ、って言ったんだ」
「神様は許してなんかくれない。祝言の日から天災が続いてるのが、何よりの証拠じゃない」
「神様は分かってくれる!」
「お母さんがそう思いたいだけでしょ?やっぱり許されるはずがないのよ。だって靜佳は、人殺しの子なんだから…」
「人殺し」= シラ神さんのお父さん or お母さん なわけですね。
そして、その子供であるシラ神さんは、神様に赦されない。
だから、結婚式の日からずっと天災が続いている、と…。
『何のことだろう…人殺しの子?お母さんが…いや、お父さん…?』
そこへ、まだ仕事中のはずの徹也くん。
「お祖父さんが急に倒れたから、病院に連れて行って……」
お祖父さんは、そのまま亡くなりました。
お祖父さんの遺影が飾られた仏壇に、手を合わせるシラ神さん。
仏間に入ってきたお祖母さんは、何も言わずにいきなりシラ神さんを平手打ちし始めます。
慌てて止める徹也くん。
「やめてくれ!なんで靜佳にそんなに強く当たるんだ!」
「やかましいっ!」
胸に手を当てて、苦しがるお祖母さん。
「ほら見ろ、興奮するから…」
心臓に持病があるようです、お祖母さん。
「私がちゃんと務めさせなきゃ…認めさせなきゃ…」
うわ言のように繰り返すお祖母さん。
「靜佳、大丈夫か?」
「大丈夫。悪いのは私だから…」
木々の蕾が綻び始めたころ。
シラ神さんは、図書館に出かけます。
「どうしても読みたい本があるから」
「お祖母さんも病床に伏せているから、たまにはいいんじゃないの」
と送り出してくれたお母さん。
シラ神さんの目的は、本ではなく「新聞」でした。
図書館には過去の新聞もあるので、その記事から父親の記憶を探ろうとしたのです。
しかし、お目当ての記事(お悔み欄でしょうか)は、どこにもありません。
『思い出せ…お父さんが死んだのはいつだ…?私が5歳…6歳の時?最後に姿を見たのはいつだった?思い出せ…』
ふと、ある可能性を思いつきます。
『……本当に、死んだのか?お父さんが人殺しなら……もしかしたら…』
死んだのではなく、刑務所に…。
さて、シラ神さんのお話、中編となる「白神靜佳②」をご紹介しました。
死役所に勤めているとき同様、生前のシラ神さんも、非常に控えめな方です。
やはり、この人と「死刑囚」となる犯罪が結び付きませんね。
お祖母さんの禁を破って子供ができ、子供を殺そうとしたお祖母さんを殺した、
或いは
お祖母さんに子供を殺せと言われ、言いつけ通り殺した
とかでしょうか…。
第75条 白神靜佳③
3回に渡った、シラ神さんの生前のお話、最終話です。
亡くなった父のことを思い出せない、シラ神さん。
お祖母さんの言っていた「人殺しの子」。
人殺し=父
ならば、父は刑務所に…?
山仕事に出たまま、帰りの遅い徹也くんを心配し、探しに山に入るシラ神さん。
お祖父さんが亡くなって、一人で仕事をしている徹也くん。
仕事中の事故で、どうやら足を負傷したようです。
作業車に乗って山を降りようとするも、その車も動かなくなった、と。
「ごめんなさい…」
咄嗟に謝るシラ神さん。
「何でお前が謝るんだよ」
父は刑務所にいるのではないか。
そう考えたシラ神さんは、刑務所を訪れ、父が収監されているか、確認していたのです。
「白神さん、すみません。
白神辰男さんという方は、収監されてません。」
しかし、父が「人殺し」であると確信しているシラ神さん。
『神様が怒ってるんだ…。
私が悪いんだ。人殺しの子のくせに、結婚なんかして。
子供を作りたいと思っている。
天災も、お祖父さんが死んだのも、お祖母さんの具合が悪いのも、私のせい。
いっそのこと……みんな死んでしまえば、徹也くんとの子供が作れるのに……』
「靜佳、こっちの道から行こう。
そっちだとほら、お祖母さんに行くなって言われてる道だ。」
「どうしよう…私通ってきた…」
「そうか、大丈夫だったか?」
「うん…別に何も…」
「そっか、お祖母さんには黙っておこうな。」
『私さっき…何を考えた…?
徹也くんの怪我だって、私のせいなのに…。
頭疲れてるな、今日はゆっくり休もう。』
「あっ、カエルだ。靜佳、踏まないように気を付けろよ。
あれ?お前カエル苦手だっけ?」
「だ、大丈夫だ……」
『お父さん、カエル。』
古い記憶が呼び起こされたのか、明らかに「大丈夫ではない」様子のシラ神さん。
「お祖母さん、食事です。」
病床のお祖母さんに、食事を運ぶシラ神さん。
が、お盆を持つ手が震えています。
案の定、お盆ごと食事を落してしまうシラ神さん。
「お前…」
お祖母さんが怒るより早く、食い気味に
「ごめんなさい、ごめんなさい」
と謝るシラ神さん。
「謝ればいいと思ったのか!
お前は今まで、何のためにお努めしてきたんだ。
意味ない、何の意味もなかった!」
『所詮、人殺しの子だ』
お祖母さんの発していない言葉が、シラ神さんだけに聞こえます。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……」
お祖母さんに、うるさいと注意されるまで、謝り続けるシラ神さん。
庭で草むしり中、近所のおばさんが話をしながら通りがかります。
他愛のない雑談です。
しかしその中に、『人殺しの子』という言葉。
もちろん、通りがかったおばさんたちは、一言もそんな言葉を発していません。
シラ神さんにだけ、聞こえる言葉。
幻聴。
『人殺しの子』
『人殺しの子』
『人殺しの子』
『やめてくれ……っ、ごめんなさい…』
心身の状態は、悪くなる一方。
「靜佳、眠れないのか?
最近元気ないけど、何かあったのか?」
「徹也くんの足が、もうすぐ治るって。ヒビだけで良かった…」
「そうしたら、仕事もまた始められるし。
大体、お前が気に病むことないんだって。」
『笑ってなきゃ…今まで通りにしなきゃ…知られてはいけないんだ…離れたくない…』
「知られてはいけない」
やはり、何かを思い出したようですね。
お祖母さんの寝床であり、仏間になっている部屋。
シラ神さんが、お祖父さんの遺影に手を合わせています。
「お祖母さん、ちょっといいか?
これ、作業着のポケットに入っててな。
もしかしてお祖父さんのかな?」
「そうだな…」
『そうだな、人殺しの子』
お祖母さんが言ったかのように、シラ神さんには聞こえます。
徹也くんには知られたくない。
「やめてください!!
徹也くんには、徹也くんにだけは!!
お願いです!!
もっとしっかりお努めします!
堪忍してくだ…」
『人殺しの子』
「あああーーーーー!!」
耳を塞ぎ、頭を抱え、
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい…」
「靜佳、落ち着け!どうした!?」
統合失調症に近い症状なのでしょうか。
『まさか…』
お祖母さんには、思い当たるところがあるようです。
徹也くんは足が治り、無事に仕事に復帰しました。
土間で一人佇むシラ神さんのもとに、お祖母さんが来ます。
「お祖母さん…起きて大丈夫なの?」
「ああ、靜佳お前…」
『人殺しの子』
幾度となく聞こえる幻聴。
「ごめんなさい」
反射的に謝るシラ神さん。
「もしかして、思い出したのか!?」
シラ神さんがまだ小さかったころ。
父が、まだ生きていた頃。
父親の背中を押し、驚かすことが好きだったシラ神少女。
「お父さん、お父さん、どーーーん!!」
「こら靜佳!お前はまた、お父さんに悪いことして!」
「わあー!」
はしゃぎながら、逃げ出すシラ神少女。
「謝れ!こら靜佳!
あなたが甘やかすから、悪戯するんですよ!」
「すみません。でも、靜佳には自由にのびのび育ってほしいので…」
優しく、大好きだったお父さん。
「お父さん、池だよ。ちょっと凍ってる。」
「今朝は冷えたからね。」
「お父さん、カエル。」
「冬眠中じゃないの?どこどこ?」
いつものように、父の背中を押すシラ神少女。
「びっくりしたー?お父さん?」
池に落ちたっきり、ピクリとも動かない父。
「お父さん?」
「冷たい池に落ちて、心臓麻痺だって…」
「可哀想に…」
「靜佳、お前が押したのか?
いいか、よく聞きなさい!そんなこと、誰にも喋っちゃだめだ!!
お父さんは勝手に落ちただけだ!
忘れろ、靜佳!!お前は何もやってない!!」
いつものように、お父さんを「ドン」と押し、驚かせただけだったのに…。
お父さんを「殺して」しまったシラ神さん。
「忘れろ、靜佳!!お前は何もやってない!!」
お祖母さんの言葉に、素直に従ったのか。
翌朝、起きて居間に向かったシラ神少女。
お母さん、お祖母さん、お祖父さん…。
「お父さんは、どこ行ったの?」
本当に、お父さんにしたことを忘れてしまった、シラ神少女。
そして、ずっと忘れていた過去を、徹也くんと一緒に見た「カエル」をきっかけに、思い出したのです。
お父さんの優しさも、思い出も、自分がしたことも。
『私は勝手に、忘れてしまっていた』
『人殺しの子』
『人殺しの子』
『人殺しの子』
『人殺しをした子』
徹也くんには言わないでくれと、お祖母さんに懇願する白神さん。
子供も作らないから、お願いします、と。
お祖母さんは、「そうか…思い出したのか……」と。
しかし、シラ神さんに聞こえてくる言葉は、お祖母さんが一言も発しない、残酷な言葉。
「神様の子を産めなければ、どうしようもない。
使えない子だ。2人は別れさせよう。
人殺しの子だから、仕方がない。
人殺しのくせに。
徹也にも教えてやろう。
あははははははは。
私が殺してやる。」
手元にあった包丁を持ち、
「やめてくれぇ!」
お祖母さんの腹部を刺した、シラ神さん。
「ご、ごめんなさい……ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……」
発する言葉とは裏腹に、お祖母さんをメッタ刺しにするシラ神さん…。
そこへ、外出していたお母さんが帰ってきます。
勝手口を開け、まず目に入ったのは、(返り血で)血だらけのシラ神さん。
「何?どうしたの!?何があったの?お母さん!?
お母さん!!しっかりして、お母さん!!」
お祖母さんに向かって、必死に叫ぶお母さん。
そのお母さんからも、実際には発していない言葉が聞こえてきます。
「また人を殺したのか。あははははは。
2人は別れさせよう。神様の子も産めない。使えない。ははははははは。」
お母さんのことも刺してしまった、シラ神さん。
白神靜佳
祖母・トヨと実母・民子を包丁で刺殺。
刺し傷はトヨが11か所、民子は24か所にも及んだ。
仕事から帰った夫・徹也が2人の遺体を発見。
2日後に山中で彷徨っているところを、警察が保護。
犯行を自供し、逮捕される。
拘置所を訪れ、シラ神さんと面会する徹也くん。
実は、シラ神さんがお父さんを殺したことを、知っていたと。
「お祖母さんがあまりにもおかしいから、お母さんに聞いたんだ。
そしたら、お前が子供の時、お父さんを…って。
お母さんには『別れてもいい』って言われたけど、おれは絶対いやだって…考えられないって…
お前が過去に何をしてても、一緒にいたかったから…」
裁判では犯行時に心神耗弱状態だったとして、刑事責任能力の有無が争点となる。
最高裁で死刑が確定。
判決が読み上げられると、深々と頭を下げた。
死役所。
再びセクハラの話題。
シラ神さんにセクハラなんてしてないでしょうね、とニシ川さんに問い詰められるハヤシくん。
自分はセクハラなんてしないが、
「シラ神さん、おとなしいし狙われやすそうすもんね。あれで元死刑囚なんだから、不思議なもんすよ。」
確かにそうでした。
何があってもまずは「すみません」のシラ神さん。
そんな人がなぜ?と思いましたが…。
「そういやシラ神さん、現世に会いたい人はいないって、前に言ってたな…。
シ村さんは?そういう人いるんすか?」
「…ええ、まあ…」
「そっか、ここにいる楽しみがあって、いいっすね。」
「ハヤシくんもいるって言ったっけ?」
「はい、おれは姉貴と…」
「と?」
「…何でもないす」
マンガを探しに行かなきゃならない、とその場を去るハヤシくん。
生前、最初から最後まで、ハヤシくんの味方だったお姉さん。
もちろんお姉さんには会いたいでしょうが…。
あとは?
お祖父さん、お母さんは亡くなってますし、奥さんと子供は自分の手で…ですからねぇ…。
お父さん…なんでしょうか?
戸籍上の父、血縁上は兄、という非常に複雑な関係のお父さん。
あまりピンときませんがね…。
「何か言いたそうでしたね。」
「皆さん、色々な想いを抱えていらっしゃいますからね。」
「想いねぇ~、ハヤシくんの想いぃ~~?」
「事情も想いも、人それぞれですよ。」
一方、病死課で業務中のシラ神さん。
「他殺課」から、ハシ本くんが「病死課」のファイルが紛れ込んできた、と持参します。
『「他殺課」…
お祖母さんとお母さんの人生史がある…多分、お父さんのも…。
イシ間さんは一度だけ、自分が殺した人の人生史を見たことがあるって、言ってたけど…
私には、怖くて読めない…』
そして、以前のハヤシくんとのやり取りを思い出します。
ハヤシくんがシラ神さんに、頼んできたこと。
「ちょっと見てほしい人生史があって…
多分このファイルの中にあるんすけど…」
「はい…その方のお名前を教えていただけますか…」
「えっと…あの…
あー、すんません!やっぱいいす!それっ、おれが棚に戻しときますねっ!」
『皆、色々な事情と想いを抱えてる…』
3回に渡ったシラ神さんの生前のお話。
実は「白神靜佳①」で、かなり核心に迫ることを書いてましたね。
シラ神さん自身が「人殺しの子」、だとか辛い思い出なので、無意識にその記憶を封印、とか。
ま、すっかり忘れてましたがね。
自分が幼い頃、もちろんそんなつもりもなく、結果的に「殺して」しまった父。
ふとしたきっかけで思い出したものの、それを最愛の「徹也くん」に知られたくないがためか、精神を病んでしまったシラ神さん。
しかし、徹也くんはそのことを知っても、シラ神さんを愛しており、過去のことなんて関係なかった…。
悲しいです。
悲しいですが、予想を裏切るようなシラ神さんの過去でなくて、そこだけは救われました。
第76条 ニンジン
特養ホーム「ペチュニア」。
朝、介護士さんが入居者の方々を、起こして回ります。
「今日いい天気ですよ。城戸さん?城戸さーん。」
今回の「お客様」は、この城戸さんなのでしょうか…。
死役所。
倉庫で鉢合わせた、ハヤシくんとハシ本くん。
「イシ間さん、天国に行けたんすかね。
イシ間さん覚えてます?『他殺課』にいた頭ツルツルの。」
「うん」とも「ハイ」とも声は出さず、頷いて意思表示するハシ本くん。
相変わらず口数の少ないハシ本くん。
でも、キレると暴れだしますからね。
死役所に来てすぐの頃、フシ見さんの注意に耐えかね、暴れたことがありました。カッターでフシ見さんに切りかかるも、逆に喉をスッパリ切られましたからね…。シラ神さんに(大分雑ですが)傷を縫ってもらったハシ本くん。
「イシ間さんいい人だったから、そろそろ天国に行けてるかなって。」
「行けてる訳がないだろう。」
不機嫌そうに話に入ってきたのは、加賀シロさん。
イシ間さんが成仏した後、
「あの男はいちいち客に同情して、鬱陶しかった」
と言っていた、あまり温かみの無い職員ですね。
「人柄の良さという曖昧なものが、生前の悪行を凌駕して、天国行きの基準になるとは、考えにくいのでは…」
ハシ本くんも加賀シロさんに同調します。
「そもそも天国と地獄の存在、そのものが曖昧だ。」
畳みかける加賀シロさん。
「確かに実際に、見たことはないすけど…」
「死役所」の世界では、「成仏の扉」の向こうは天国 or 地獄 で決まっているものかと思ってましたが…。
死役所職員も、はっきりしたところを知らないんですね。
「扉の先のことは分からん。」
吐き捨てるように去っていった、加賀シロさん。
ハヤシくん的には、扉の向こうは天国 or 地獄であり、地獄に行ったとしても苦行を積むことで、天国に行ける、と信じていたので…何を信じればいいのか…。
そこに入ってきたのが、件の「城戸さん」。
やはり、特養でお亡くなりになってたんですね。
ハシ本くんを見るなり、
「それ、かっこういいな」
と。
首を真一文字に切られたのを、フランケンシュタインばりに縫われた傷です。
フシ見さんに切られた時のことを思い出し、気分が沈んでいくハシ本くん。
一方、
「バッテンがいいすよね、バッテンが!」
呑気に乗ってくるハヤシくん。
「お客様、行きましょうか。」
シ村さんに促され、倉庫を後にする城戸さん。
「今のおじいちゃん、頭に傷がありましたよね。見ました?」
ブンブンと、首を横に振るハシ本くん。
ハヤシくん、天然で何も考えてなさそうなんですが、何気に細かい観察眼してますね。
「自然な怪我じゃない感じ、虐待かも。」
「それは短絡的では…」
「そうすかね?つい…。
もしそうだったら嫌だなって、悪い方にばっかり考えがいっちゃうんすよね。」
『この人は…表面的に見たら、いわゆる「いい人」だ、と思う。
でも、3人を殺した元死刑囚。
理由は、「裏切られたこと
への報復。
そして、反省したい、と考えているけど、
今生きていたら「相手には不幸になってほしい」と思ってる。
目標と感情が、全く噛み合っていない…』
ハシ本くんなりに、ハヤシくん分析したうえで、
『不思議な人だ…』
とその場を去るハシ本くん。
口数は少ないし、表情の変化もない子ですけど、ちゃんと「自分の考え」持ってる子ですよね、ハシ本くん。
第8巻「母」の時も、胎児に意志はないというシン宮さんに対し、「胎内記憶があるから、意志がないとも限らないのでは…」と、返してましたし。
ハシ本くんを追いながら、
『そういや、他になかったっけ?
地獄から天国に行く方法…』
何かを思い出したハヤシくん。
心臓病死課の前を通りがかると、城戸さんが手続きの最中でした。
「あっ、病死だったんすね。
頭に傷があるから、もしかして殺されたのかな、って。」
ハヤシくん…素直な良い子なんですが…「言葉を選ぶ」ということを知らないんですね…。
シュンとした様子の城戸さん。
「変か?これ、変か?」
傷を気にする城戸さんに、
「いえ、全く変ではありませんよ。」
とフォローするシ村さん。
手続きに必要な死亡時刻が分からない、という城戸さん。
「俺、調べますよ」
ハヤシくんが、城戸さんの生前の情報を調べます…。
生前の城戸さん。
入所していた特養で、同じ入所の友人男性と、TVで格闘技を見ています。
城戸さんの好きな選手は、「ヤマト」。
タトゥー&ラインの、ちょっとヤンチャな感じのお兄ちゃんですね。
友人男性には「ヤクザは好かん」とヤクザ扱いですが…。
後日、特養の若い男性職員が、側頭にラインを入れているのを見て、
「それ、かっこういいな。」
と城戸さん。
「これですか?ありがとうございます。」
後日、男性職員が城戸さんを部屋を訪れると、城戸さんのこめかみに傷が。
「どうしたんですか?その怪我。
血が出てますよ!どこかぶつけました?」
同室の男性が
「さっき、自分でカミソリ使って切ってたぞ。」
と。
そう、ヤマトや職員のように、側頭にラインを入れたかった城戸さん。
自分でカミソリで入れようとした結果の、怪我だったのです。
場面は変わり、死役所。
城戸さんのデータを見たハヤシくん。
怪我が治ったら、特養の職員が剃ってくれるはずだったことを知ります。
心残りな様子の城戸さんを見て、何とかしてあげたい、と思うハヤシくん。
髪と言えば…。
「ライン入れるってこと?無理。バリカンないし。」
生前美容師だったニシ川さんに頼みますが、ピシャっと断られます。
「ハサミじゃできないんすか?」
「やったことないもん。
多分傷がつくし、ガタガタになるよ。」
「痛いのは嫌だ。」
「大丈夫ですよ、城戸さん。
死んでいるので痛みは感じませんし、血が出ないので傷も目立ちません。」
そう言う問題なのでしょうか…。
「ガタガタにされるのイヤでしょ?」
「うん、嫌だ。」
「そこは元散髪屋の、腕の見せどころしょ?」
「散髪屋なのか?」
「ええ、元散髪屋です。」
「美容師、って言ってくれます?」
そんなやり取りをしている間に、
「あ!」
ニシ川さんが、何か思いつきます。
「編み込み」でした。
編み込みでラインっぽくしてくれたのです。
「かっこいいか?」
「滅茶苦茶かっこいいす!」
満足気な城戸さん。
ちょうど書類もでき、編み込んでもらった側頭を触りながら、成仏課に向かいます。
「あー、思い出した。ニンジンだ。」
ハヤシくん、ハシ本くんに逃げられた際に考えていた、地獄から天国に行く方法です。
「ある時悪人が死んで、地獄に落ちるんすけど、その人は生前、旅人にニンジンをあげる施しをしたことがあったんす。
それで天国から吊るされたニンジンを掴んで、地獄から脱出するんす。」
完全に「蜘蛛の糸」ですが。
「で、それが何?」
つっけんどんに返すニシ川さんに対し、
「地獄に行っても、生前の行いによって天から助けがあるかもしれない。
ちょっと希望湧いてきません?」
「……私達の罪が、ニンジンくらいでチャラになると思う?バカなの?」
相変わらず、きれいですが、口の悪いニシ川さん。
「善行を積むことが、天国行きの足掛かりとなる…そういうことでしょうか?」
シ村さんがフォローします。
「そう!ニシ川さん、天国から城戸さんが降りてきて、、引っ張り上げてくれるかもしれませんよ!」
「調子のいい話。」
ため息交じりのニシ川さんに、シ村さんが
「いえいえ、案外ありえる話かもしれませんよ。
私達は誰も『成仏の扉』の先に進んだことは、ありませんからね。」
当たり前と言えば当たり前ですが、ニシ川さんもシ村さんも、「成仏の扉」の先のことは分からないんですね…。
「ちなみに、『蜘蛛の糸』では最終的に、悪人は再び地獄に落ちます。」
「え…」
知らなかったんですね、ハヤシくん…。
カンダタは、自分に垂らされた蜘蛛の糸を辿って登る最中、下から大勢の者たちが登ってくるのを見て、「糸が切れる、降りろ!」と叫んだ途端、糸が切れて再び地獄へ…でしたね。
成仏課。
手続きを待つ最中、他の男性から「その頭、かっこええな」と言われた城戸さん。
「いいだろう」
見事に「ドヤ」って感じの城戸さんでした。
シラ神さんの生前のお話があって、次は何が来るんだろうと思っていたら、クッションのような通常回でしたね。
ただ、個人的には「なるほどなぁ」と思わされましたね。
歳を経る毎に、自分の「見てくれ」に、気を遣わなくなったなぁ…と。
もちろん、個人差あると思います。
さすがにラインは入れられませんが、もう少しくらいは気を付けよう、と思いました…。
第77条 そばにいるよ
【この記事は「死役所 第77条 『そばにいるよ』のあらすじをご紹介するもので、ネタバレを含みます】
タイトルは…何やらテルマさんを思い起こさせますが…。
現世のラーメン屋。
職場の後輩「学登(がくと)」くんに引っ越しを告げる「照屋(てるや)」さん。
やはり思い起こさせますね、テルマさん…。
どうやら元カノと同棲していたらしい照屋さんは、元カノから家財は「電気ケトルだけ」という状態での引っ越し。
が、職場に近くなったうえに、1LDKで家賃は「25,000円」。
その安さには理由があり、いわゆる「事故物件」。
休みの日に、照屋さんの「事故物件アパート」を訪れた学登さん。
この部屋で亡くなったのは50代の女性で、場所は浴槽。
室内を「何か写るかも」と、パシャパシャ写真を撮りまくる学登さんに、照屋さんは聞きます。
部屋に入った際、学登さんは「現場」をリビングだと思ったのですが、「何か感じた」のかと。
実は内見の際、リビングの真ん中で「ゾクゾクッ」と、ひどい寒気を感じていた照屋さん。
同じような悪寒を、学登さんも感じたのかと思ったのですが、「広いからここかなーって」、特に何かを感じたわけではなさそうです。
後日の職場、照屋さんのアパートで撮った写真には「何も写ってませんでしたー」と報告する学登さん。
対する照屋さんは、具合が悪そうです。
熱を測ったところ、37.8℃。
「呪いですかね…」
「呪いかも…」
なんて冗談を言いながら、自宅まで学登さんに送ってもらう照屋さん。
そのまま眠りにつきます……。
死役所。
「これ、面白いんでちょっと見てみてください」
シ村さんを呼び止めるハヤシくん。
ハヤシくんが見せたのは、「生活事故死申請書」。
53歳の「七島 俊美(ななしま としみ)」さんは、風呂場でヒートショックを起こした女性。
ヒートショック
気温の変化によって血圧が上下し、心臓や血管の疾患が起こることをヒートショックといいます。
この血圧の乱高下に伴って、脳内出血や大動脈解離、心筋梗塞、脳梗塞などの病気が起こります。
どうやら、照屋さんのアパートを「事故物件」にした、ご本人のようですね。
ただ、ハヤシくんが「面白い」と思ったのは、七島さん自身ではなく、その「元交際相手」の男性のようです。
ハヤシくんが取り出したのは、七島さんと同じ「生活事故死申請書」
「仕事を忘れて読みふけった」
というハヤシくん。
「仕事を忘れて」と言いますが、「仕事をしている」描写があまりないですからね……。
男性の名は「大須賀 時和(おおすか ときかず)」さん、32歳。
七島さんとは、死亡時期が2年ほど違っていますが、それでも20歳くらい年の離れた(女性が年上の)歳の差カップルだったようです。
生前の大須賀さんは、造園会社で働くアルバイト。
勤め先の親方に、
「こんにちは、お疲れ様です」
と挨拶する女性。
知り合いなのかと尋ねますが、「全く知らない人」だと。
ただ、親方も大須賀さんも、おそらく近所で働いているだろう女性に、幾度となく挨拶されており、「感じの良い人」という印象を持っていました。
この女性が七島さん。
この時点ですでに、七島さんのことが気になっていた、大須賀さん。
その様子に気付いた親方が、気を利かせてくれます…。
造園会社のアルバイト、大須賀さんが抱いた恋心に気付いた親方。
40代後半であろう七島さんに、「結婚しとるやろうなー」と思いながら、確認したところ…。
「独身だって~!良かったな~!!」
交際を始めた二人。
男女どちらが年上でもそうですが、20歳も離れてると「親子」のようです。
ちなみに私の知人には、旦那さん70代、奥様30代という、かなり年の離れたご夫婦がいます。
およそ40歳の年の差…完全に「親子」と思って話をしていて、しばらくそれに付き合ってくれた、とてもいいご夫婦です。
大須賀さんも、20歳年上の七島さんに、精神的に依存してしまったのか、
「休みが合わなくて、俊美さんに会えないから」
という理由で、バイト先の造園会社を辞めてしまいます。
そんな理由で辞めちゃダメ、すぐに親方に退職を撤回してきて、という七島さんに対し、
「仕事より、俊美さんといる時間の方が、大切なんだよ。
ちゃんとバイトはするし、夕飯作って待ってるよ」
高校生、大学生くらいだと、「一緒にいる時間が短い」ことでケンカになったりしますが…。
32歳で亡くなった大須賀さん、この時点ですでに30を超えていたでしょう。
私見ですが、軽率な判断に思えます。
いい歳の大人が、自分と居たいがために仕事を辞める…。
ショックを受けた七島さんは、大須賀さんに別れを告げます。
「もう一回、やり直せないかな…」
「ごめんね、もう決めちゃったから」
おとなしく別れに応じ、同棲していたアパートを出てゆく、大須賀さん。
『よかった、ごねないでくれた…』
この後が、ハヤシくんが「仕事も忘れて読みふけった」大須賀さんの人生史に書かれていた、大須賀無双です。
大須賀さんは、七島さんにアパートの鍵を返す前に、「合鍵」を作っていました。
七島さんが仕事に出た後、七島さんの部屋に忍び込み、「天井裏」に住んだのです。
七島さんが仕事に出かけたら、部屋に降りてくる。
七島さんの留守中にバイトに行き、シフトは時間に余裕を持たせて、絶対に鉢会わないようにする。
こっそり携帯を充電したり、洗濯したり。
天井裏には当然トイレはありませんので、トイレに行かなくていいよう、食事は極力控えて…。
住みついた頃は良かったものの、季節が変わり、寒さが堪える時期に。
天井裏には、当然暖房などありません。
凍えながら、天井裏で息を潜める大須賀さん。
『何で…?
あんなに好きって言ってくれたのに…
大好きなのに…
ごめんね、ごめんね
これからは気を付ける
もう俊美さんを困らせたりしないから、
俊美さん、俊美さん、………』
朝、七島さんが目を覚ますと、外は一面の銀世界。
『去年の冬は、時和と雪だるま作ったっけ。フフ、懐かし』
友人からの電話で、朝食にカフェに出かける約束をする、七島さん。
大須賀さんのことは、すっかり「過去の思い出」のようです。
その思い出の男性が、天井裏で凍死しているとも知らず……。
「2年3か月」
大須賀さんが亡くなった後、七島さんが「同じ部屋」に住んでいた期間です。
「多分、遺体が腐るまで気付きもしてないすよね。天井抜けてたりして」
しかし、その割には七島さんの人生史に、大須賀さんの遺体のことが書かれていません。
自分の元カレが、自室の天井裏で腐って発見されるなんて、相当な出来事でしょうが…。
七島さんにとっては、そう重要な出来事でなかったのか、
「もしくは、腐らなかったか…」
シ村さんが、大須賀さんの死体は腐っておらず、「まだ見つかっていない」可能性に言及します。
しかし、
「空気の状態や体の状態など、条件が揃うことは滅多にないでしょうし。考えすぎですかね…。
きっと、遺体は腐っても愛は腐らなかったのでしょう。」
意味はよく解りませんが、何やらうまいこと言うシ村さん。
勘のいい方はもうお気づきでしょうが……。
場面は再び現世。
体調不良で会社を早退した、照屋さん。
深夜、トイレに起きます。
部屋の内見の時同様、「ゾクゾクッ」という悪寒に襲われます。
『風邪のせいかな…?でも、またこの場所だ…』
「滅多にない条件」が揃い、凍死した後も腐らなかった、大須賀さんの遺体が眠る天井裏は、まさにその真上でした……。
いやぁ……怖かった…。
途中からね、読めたんですよもちろん、ラストが。
読めたけど…怖かった……。
テルマさん連想してるどころじゃなかったわ。
むしろあの曲聴いたら、大須賀さんのことを思い出しそうだわ…。
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