カナ(宇白 可奈・うしろ かな)編③
この記事には「ぼくらの」のネタバレを含みます。
9巻表紙がカナちゃんです。
アンコの戦闘の後、カンジとマチ、ウシロの親御さんには、ジアースのパイロットが戦闘後にどうなるのかを、伝えられていました。
残された時間を、悔いのないように使えるように、という配慮から。
まだすべての戦闘が終わったわけではないが、いつ終わってしまうか分からない。
ならば、本当のことを当事者には知っておいてもらうのが筋、という佐々見さんの思いです。
何の慰めにもならないことは、承知の上で。

「パイロットがあのガキだから焦ってんのか?」
コエムシが核心を突きます。
次のパイロットがカナだから、負ける可能性が高いから、やれることをやっておこう。
そういうつもりなのか、と。
「時間が無くなる、とは思っている。
ジタバタするのも格好悪い。
が、自分の孫のような年齢の子供に、すべてを託すのも格好悪い。」
どうしたらいいのか分からない。
けど、少しでもやれることをやっておこう。
そう言う心持ちに見えますね。
ウシロの父、血は繋がっていないわけですが、元々ウシロはパイロットと思われていたため、その父に、パイロットの戦闘後のことは説明されていました。
そして、ウシロは実は契約していなかった。
が、カナが契約していた。
次のパイロットはカナ。
カナの戦闘後は…必然、どうなるか知っているわけです。
そんな父親に、
「お父さん、心配しなくていいから。
今世界中で2秒に一人、子供が餓死しているんだって。
2秒に一本ずつ、主人公が死ぬ物語が作られている。
他愛ない話なんだって。
でももし、これが悲しい話として誰かの目に映るのなら。
皆にそういう想像力が働くといいなって、思ってる。
お父さん、心配しなくていいから。
私は、大丈夫だから。」
健気ですね…。
そして、キリエのように「自分に関係ない命にも、関心を持ってほしい」と思ってる子。
こんな子だからこそ、ウシロからの暴力にも耐え、その母を懸命に探したんでしょうね。
カナの最後の望みを叶えるべく、田中さんと会うウシロ(とカナ)の父。
宇白先生と、元教え子・田中さん。
「順(ウシロ)の母親として、名乗り出てほしい」
「本当にすいません。
それだけはどうしてもできないんです。
私も、ジアースと契約しているから。
順にとっては、契約しなかった自分のために、妹であるカナちゃんと、母親である私が契約してしまったことになるんです。
私たちがいなくなった後、順がどうするのか。
どう生きていくのか。
生きていけるのか。
一人足りないパイロットに、名乗り出ることはないのか。
どうやっても、順にとって辛いことにしかならないでしょう。
だから、私には言うことができません」
田中さんの決意は固いようです。
「君の家族は、そのことを知っているのか」
「言っていません。
言えば反対されますから。
私が軍人である以上、予測されうる事態だと思って、諦めてもらうしかありません」
「強くなったんだな、君は。
私は弱いままだ…」
少なくとも、中学卒業後に妊娠し、恩師の元に転がり込み、出産後に子供を置いて逃げた人とは思えませんね。
「先生、今でも役に立っていますよ。
先生の『死の授業』。
自分が死んだとして、周りの人たちのその日、次の日、一週間御、1ヶ月後、1年後、10年後を想像する。
あれは面白い授業でした」
「あれは『死を覚悟』するためのものではないし、死なないことを前提とした授業だ。
それにもう、ずっと行ってないんだ。
学校に抗議をした親があってね。
校長に叱られた。
人は自分が死ぬなんてことは、考えたことがない。
もしくは、怖くて考えようとしない。
でも、死を考えることがないから、生を考えることもない。
もしかしたら明日死ぬかもしれないと考えたら、きっと今日の生き方も変わってくる。
本来なら、順に全てを伝えて、自分で考えさせるべきなんだろうが…」
「先生の口癖を思い出しました。『考えなさい』。」
『それは、人間に与えられた最高の娯楽。
特に中学くらいの年代にとっては、とても大切なんだ。
人生において、至高の喜びを与えられた期間。
先進国に限定される話ではあるけれど、今日の食事を得るために、思考力を使わなくていい期間。
それは生存していくという観点から見れば、極めて特殊なことだ。
そして実は、それは人間の大人も全く変わりがない。
大人も、今日の自分の食事を得るために、考えているにすぎない。
大人の思考は、実質動物と変わらない。
でも、子供の期間は違う。
自分が生きることに直接関わりのない、どうでもいいくだらないことに、悩める期間。
大人からすれば、そんなの社会に出れば分かるとか、現実には通用しないって、答えられてしまうような、青臭いとされる悩みや考え。
でも、その答えは実は、答えにはなっていない。
日々に流され、考えることを放棄している、ただの言い訳だ。
そういった子供の頃に抱く、潔癖さの入り混じった考えや悩み。
それはとても重要なことだ。
自分のその日の生存に直結しないから、その思考は自由で、そして可能性に満ちている。』
その「考える」ことを、息子である(ウシロ)順に背負うせるべきなのか、田中さんは悩みます。
残り少ない、カナの普通の生活。
「学校には行かなくていいのか?もう再開してるだろう?」
「うん、でも色々説明するの大変だから…。
友達にはお手紙書いたし。
お父さんこそ、学校ずっと休みしてて大丈夫なの?」
「あぁ…。どこか行きたいところとか、本当にないか?」
「家にいられればいい。
お父さんの生徒さんから、いっぱい電話かかってきたね。
あんまり休んで、心配させちゃだめだよ。」
「そうだな…。今日は、お父さんが夕飯の用意するよ。何が食べたい?」
「カレー!お兄ちゃんが好きだから。」
「じゃあ甘口だ」
「うん、甘口」

何気ない、親子の会話。
お互い、残された時間が少ないことを知ったうえで、お互いを気遣い合っている…。
「お父さん、ごめん。夕ご飯、食べられない。」
戦闘が始まります。
コックピットに呼び出されます。
「お父さん、ありがとう。」
父親の目の前で、ジアースに転送され、消えるカナ。
コックピットには、戦闘機が持ち込まれていました。
佐々見さんがコエムシに依頼していたのは、この戦闘機を持ち込むことでした。
そして、パイロットは田中さん。
場所はアウェイ。
しばらくして、転送されてきたマチ。
田中さん、佐々見さん、ウシロ、カナ。
全員が何か言いたげに、マチを見ます。
それを察して、コエムシが
「意見があったら、オレ様を通してな。なんせ可愛い妹なもんでよ。」
さすがに皆、驚きます。
コエムシとマチは兄妹…。
パイロットとして契約しているはずのマチが、コエムシの妹…?
どういうことなのか、2人に確かめたいところですが、戦いは待ったなしです。
「じゃ、行くぜ」
カナの戦闘、開始です。
「ぼくらの」
無料試し読みはこちらでどうぞ!
コメント