今回は「死役所」第9巻をご紹介します。
表紙は…車いすに座り、両手を合わせて拝む老婆と
いつものようにシ村さんです。
託す
お客様は甲斐ふく子さん、亜生子さん親御。
娘の亜生子(あいこ)は特養(特別養護老人施設)で介護士をしています。
わがままなお年寄りの世話が大変で、薬で大人しくさせれば、と考えています。
ただ、勤め先の特養は、入居者を薬で抑えることには反対の方針で、
亜生子は不満を募らせます。
「薬には副作用があるし、依存度も高くなり、それも辛い」
と言う反対意見に対し、
「中途半端な同情が一番無意味」
「自分の母が認知症になったら、すぐ薬を処方してもらう」
と、きっぱり。
家に帰ると、2人暮らしの母、ふく子さんが待っています。
表紙の老婆ですね。
亜生子は結婚していましたが、旦那さんが浮気し、実家に帰ります。
「これ以上苦しまなくていい」と離婚を勧め、出戻りの亜生子を温かく迎えたのが、
母親のふく子さんだったのです。
ふく子さんは脳血栓の後遺症で、はっきりと言葉を話せません。
デイサービスを頼んでいるようですが、亜生子はデイサービスの人たちが、きちんと母親の
言っていることを聞き取れているか、きちんとサービスを受けられているか、
心配しています。
同業者ゆえに、余計気になるのでしょう。
2人暮らしの家には飼い猫のミーコがおり、ある日ふく子さんがミーコに猫缶を
あげたいと言います。
亜生子がふく子さんに猫缶を渡すと、ふく子さんはその猫缶をガスコンロで
直火にかけてしまいます。
病院に連れて行くと、「認知症が進行している」との診断。
それでも医者から
「娘さんが介護士なら、お母さんも安心でしょう」
と言われ、喜ぶ亜生子。
亜生子は自分が夜勤の時、認知症の母を自宅で一人にはできず、
デイサービスを頼んでいたところにショートステイさせることにします。
しかし、環境の違いからくるストレスか、ふく子さんは夜中ずっと叫んでおり、
ショートステイを断られます。
別な施設を探している最中、亜生子の姉から電話が来ます。
姉から、お金を援助するから、仕事を辞めて家での介護を勧められます。
亜生子も、他人に母親を任せるより、プロであり娘である自分が介護した方が良いと考え、
自宅での介護を始ます。
深夜、大きな声でふく子さんから名前を呼ばれます。
何事かと駆け寄ると、「背中をかいて」と。
深夜に頻繁に呼び出されるため、隣に寝ることにした亜生子。
「トイレに行きたい」と言う母親をトイレに連れて行きますが、実際には出ず。
結局夜間にお漏らしし、シーツを洗う羽目に。
ふく子さんはおむつを嫌がり、漏らすとそのまま寝具が汚れてしまうのです。
介護に疲れてきた亜生子は、宅老所を見学に行きます。
出迎えたのは元同僚で、亜生子の「うるさい年寄りは薬で静かにさせた方が」と言う意見に
賛同していた内山さん。
亜生子も勤めていた特養を辞め、宅老所に移ったそう。
「甲斐さんの考えに合っているから気にいるはず」
という宅老所は、入居者皆一様に静か。
もちろん「薬で抑えているから」です。
勤めていた頃はそのように考えていた亜生子でしたが、生気なく笑顔のない入居者を見て、
母親にはそうなってほしくないと思い、自宅での介護を継続します。
毎日のお漏らし、徘徊して警察の厄介に、ぶたれ、物を投げられる、夜中に起こされ、
睡眠不足、近所からの苦情。
疲れ果て、追い詰められた亜生子は、「一緒に死のうか…」と母親を手にかけます。
自分もすぐに首をつり、息を引き取ります。
死役所で、ふく子さんは他殺課に、亜生子は自殺課に案内されます。
最後まで自分が面倒を見る、とふく子さんの他殺課に付き添う亜生子。
するとハシ本君が「データないです」と。
ふく子さんが殺された、というデータが無いようです。
巻添嘱託死課に確認すると、「嘱託死」のデータがありました。
ふく子さんは、自分を殺してくれと亜生子に依頼していたと。
亜生子が「一緒に死のうか…」と言った際、言葉の不自由なふく子さんは
「おーてーねー おーてー!」と答えていました。
その時の亜生子には何を言っているのか分かりませんでしたが、
「殺してね 殺して!」と言っていたのです。
母親は、聞き取りづらくも「亜生子をこれ以上苦しませたくなかった」と。
「これ以上苦しまなくていい」と出戻りの自分を迎えてくれた昔の母を思い出し、
母を手にかけたことを後悔し、泣きながら謝る亜生子。
ふく子さんは「お母さんが悪いの ごめんね」と謝ります。
現世では、猫のミーコが二人の遺体を見つめていました。
しっかりと手を繋いで亡くなっている、母娘の遺体を。。。
考えさせられますね、介護問題。
皆がみんな老人ホームに入れるわけでもなく、病院の世話になるわけでもなく、
家族が介護するケースも充分あるわけで、亜生子とふく子さんのようなケースは、
実際に起きているし、これからも起き続けるでしょう。
これから団塊の世代が後期高齢期を迎え、出生率は減る一方。。。
わたしの親も団塊世代なので、正直他人事ではありません。
遺すべきもの
お客様は、癌で亡くなられた「明智 磨美(あけち まみ)」さん。
まだ40歳の女性です。
ハヤシくんが明智さんの資料を見て、「何でこんなことしたんすか?」と聞きます。
元舞台女優の明智さんは、乳がんを患い、一人娘の澪ちゃんを施設に預け、入院します。
父親はいません。
澪ちゃんも「お母さんがいればいい」と、父親の話を聞きたがりません。
頻繁に見舞いに訪れ、仲良く過ごす母娘。
しかし、明智さんの癌は全身に転移し、闘病の末に亡くなります。
明智さんは亡くなる前に、一通の手紙を出していました。
この手紙を出したことに対し、ハヤシくんが
「何でこんなことしたんすか?」と言ったのです。
手紙の宛先は、澪の父親であり、舞台女優だったころの恋人であり、人気俳優でもある
「蔵沢 達也」でした。
娘を、澪を頼む、という手紙でした。
「子供ができても結婚しなかった男に手紙を出して」
「娘さんは父親なんて望んでなかったのに」
「その手紙が世間に出回り、娘が傷ついたら」
「知りたくない真実を知って何になる」
「真実を残して逝くことにどんな価値が」
ハヤシくんは、ハヤシくんが母親と祖父の間の子だと、母親が遺した手紙で知り、
それをきっかけに人生が狂い、殺人を犯した元死刑囚。(詳しくはこちらを)
自分と澪ちゃんを重ね、無責任に真実を遺して死んだ明智さんを責めたのでしょう。
明智さんの手続きが終わった後も、シ村さん相手に明智さんの自己満足を
責めるハヤシくん。
シ村さんに、「それはハヤシさんも同じではないですか」と。
ハヤシくんは、自分を裏切った妻のまりあさんと、その相手の男性を殺しましたが、
無関係な娘さんまで殺していました。
それは何故かと問われ、「俺の子じゃないってわかったら、急に化け物みたいに見えて」
「それで殺して 満足したんですね」
表情を変えず、ハヤシくんの痛いところを突き、他人のせいだけにしてきたハヤシくんの、
無関係な娘さんを殺した自己満足を、断罪するシ村さん。
その頃現世では、「蔵沢 達也」が記者会見を開いていました。
隠し子の存在と、その子を自分が引き取り、育てていくことを公表する記者会見を。
自己判断
今回のお客様は「上田 都築(うえだ つづき)」さん。
電車に飛び込み、自殺した25歳の会社員男性です。
仕事で小さなミスが続き、上司に注意される上田さん。
注意と言っても「気を付けてね」というレベルの、軽い注意。
それでも、上田さんは必要以上に気にしてしまいます。
家に帰って独りになり、「死にたい」と考える上田さん。
テレビを見ていると、交通死亡事故のニュースが流れます。
何で自分が今日ここにいなかったのか、そうしたら死ねたのに、
そうすれば誰かが「可哀想に」って思ってくれたのに、、、
「誰にも必要とされていない」
「自分がいなくても誰も困らない」
「迷惑に思われたくない、嫌われたくない」
「今すぐ死にたい、消えたい」
「楽になりたい」
警報機のなる踏切に立ち入り、電車に轢かれ、死亡します。
死役所での手続き中、職員の岩シ水くんが、
「死ねてうれしい感じですか?」
と聞きます。
この岩シ水くん、次巻で詳しく書きますが、空気読めない子です。
「自殺って怖そうだから自分には無理、それを達せるなんてすごい、
死にたがっていたんだから、自殺できて嬉しいのかな?」
って発想で、聞いたようです。
すかさずシ村さん、
「必要とされなくて死んだということは、本当は必要とされたかった
でも、上田さんが死んで悲しむ人はいません。
生きても死んでも悲しいまま…」
「それって…
せっかく死んだのに 全然意味ないですね」
自殺した直後の人間に対して、すごい破壊力です、岩シ水くん。
彼、全く悪気が無いので、余計に性質が悪いのです。
自分は何のために生まれ、何のために死んだのかと泣き始める上田さん。
自殺課のニシ川さんから「馬鹿シ水」と怒られます。
その頃現世では、上田さんに注意した上司が、「部下の様子がおかしいと感じたら」
というサイトを見て、「全部上田くんに当てはまってる、話を聞いてあげたいから
明日ご飯に誘ってみよう」、と考えていました。
上田さんが電車に飛び込んだことなど、知る由もなく。
「上田くんがいないと困るってことも、ちゃんと伝えよう」
隠しごと
今回のお客様は、保険外交員の「小見 温恵(おみ はるえ)」さん62歳。
息子さんは貿易関係の仕事で、世界中飛び回っておりなかなか家に帰ってこない様子。
「昨日フラーっと帰ってきて、今朝またフラーっと出て行った」息子さんからの
お土産を、職場の皆さんに配ります。
仕事を終え、家に帰って夕飯を作ったところで、強烈な頭痛に襲われます。
すぐさまスマホを取り出し、救急車を呼ぼうとしますが、
「あかん…救急車はっ…!」
と思い直し、スマホをしまいます。
玄関に向かって歩き出しますが、そのまま廊下で倒れて意識を失い、亡くなります。
死役所を訪れた小見さん。「脳卒中死課」へ案内されます。
小見さんの手続きをするシ村さんとハシ本君(ハシ本君は「他殺課」勤務ですが、
「振動が気になる」フシ見さんと揉めて、シ村さんに連れ戻される最中でした)。
小見さんの記入内容が、事実と合っているかデータと照らし合わせるハシ本君。
すると、あることに気付いてシ村さんに知らせます。
「世界中飛び回っている」はずの息子さんは、実は引きこもりだったのです。
小見さんはずっと、そのことを隠してきました。
お土産も、自分で買ったものを「息子が買ってきたもの」だと、
職場に持って行っていたのです。
無論、死後の世界でそんなことを隠し通す必要はありません。
小見さんは息子が引きこもった9年間ずっと、彼の世話をしてきたと話します。
食事を息子の自室前に置き、糞尿の入ったバケツをトイレに流し、9年間毎日ずっと。
あんたはきっと立ち直れる、お母さん待ってるから、と。
突然、ハシ本君が息を荒くして立ち上がります。
シ村さんに窘(たしな)められ、
「お客様は仏様 お客様は仏様 …」
と呪文のように唱え、座り直します。
ハシ本君の過去はまだ描かれていませんが、もしかすると小見さんの息子同様に、
ハシ本君も引きこもりだったのかもしれませんね。
「息子さんはこれからどうされるんでしょうねぇ?」
「きっと…これを機に立ち直って社会復帰を…」
「随分と自主性のある息子さんなんですねぇ」
相変わらず嫌味な発言ですが、的を射てますね。
現世では、小見さんの息子が「4ちゃんねる」という掲示板に
「引きこもり9年のクソニートだけど親に見捨てられたかもしれん」
というスレを立てています。
「昨日の夕飯から飯が置かれなくなった」
「お菓子で凌いでいるが、それも無くなりそう」
「部屋の前のうんこがそのままできつい」
などという書き込み。
他の人の
「親死んでんじゃね?」というレスに、
「それが一番こわいなー 親が死んだらもう生きていけん」
そうでしょうね、小見さんには気の毒ですが、9年も部屋から出てこない
引きこもりが、いきなり立ち直れはしないでしょう。残念ながら。。。
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