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【この記事では死役所 第97条 「松重謙三②」のあらすじをご紹介します】
第97条 松重謙三②
生前の松シゲさんの物語に、シ村さんの娘・美幸を殺した犯人は出てくるのか…。
或いは松シゲさん自身が、美幸を殺した犯人なのか……。
死刑囚
窃盗を犯して服役・出所後、妹の菊子さん宅に身を寄せようとしていた生前の松シゲさん。
菊子さんに数千円を渡され「ごめんなさい」
その数千円もすぐにスられ、金も行く当ても無くした松シゲさん。
甥の国彦の大学に足を運び、「金を持っていそう」な学長宅に盗みに入り、学長とその夫人を殺害。
逃亡中にも農家の夫婦を殺害し、逮捕。
計4人を殺害した松シゲさんには、裁判で死刑判決が下されます。
そんな松シゲさんの許に、健気に通ってくれる妹の菊子さん。
一方、死刑宣告をされながらもどこか他人事のようで、反省の色が見えない松シゲさん。
今度は甥の国彦も面会に連れてきてほしい。
国彦のことを息子のように思っていた松シゲさんは、菊子の気持ちを考えずにそんなお願いを。
「出来る訳ないでしょ!」
伯父が強盗殺人で死刑囚に。
親族には相応の苦しみがあったことでしょう。
第83条「あたしを助けて①」~第85条「あたしを助けて③」で、家出をして身体の代わりに寝床と食事を確保していたシュシュちゃん。
シュシュちゃんも「いじめ加害者」の家族として世間からバッシングされ、死を望んでいました。
松シゲさんの時代(多分昭和40年代)はネットは無かったので、SNS等による中傷は無かったものの、報道に関しては「プライバシー」に関する考え方が今よりも緩い時代ですから…。
いい大学に通っていたものの、「死刑囚の親族」として辛い人生を歩むことになったのでしょう。
声を荒げ、早々に面会の席を立った菊子さん。
そんな菊子さんや国彦の気持ちに、まったく気づく様子のない松シゲさん。
「殺すつもぢはなかったんだ。あのおばさんが逃げなかっただ、金だけもだって…」
犯した罪も「他人のせい」と考えているようです。
加護の会の教え
労働の義務がない死刑囚の松シゲさんは、持て余した暇を菊子さんが差し入れてくれた本を読むことで潰します。
その時手に取ったのは「加護の会の教え」
本を読んだ松シゲさんは、刑務官に願い出ます。
「この人に話を聞きたいんだ!」
松シゲさんの許を訪れたのは「蓮田英山」
「加護の会」の代表で、信者からは「お父様」と呼ばれる人物です。
松シゲさんが蓮田英山に会いたかったのは、本を読んで
「心がすーっと落ち着いた」
から。
そんな松シゲさんを「心が美しい」と評する蓮田英山。
変に自分を飾り立てないから、他人の言葉に耳を傾けることができる。
心が美しい証拠だと。
人を殺した松シゲさんに対しても、それは事実に過ぎず
「あなたの心は美しいんです」
と微笑む蓮田英山。
愛してますよ
蓮田英山の教え、蓮田英山と話すことが楽しかった様子の松シゲさん。
また来てくれと頼むと、九州にいるから頻繁には来れないが「必ず」と約束する蓮田英山。
約束を違えず、再び松シゲさんを訪れる蓮田英山。
「先生は金持ちかい?」
松シゲさんが大学学長宅に盗みに入ったのも、金持ちへの恨みからでした。
そんな松シゲさんに「現状に幸せを見つけること」「受け入れること」を説く蓮田英山。
いつ死刑になるかビクビクして、受け入れるなんて無理だという松シゲさんに
「死を恐れる自分を受け入れる」
ところから始める。
自分の感情を受け入れることが、自分を愛することに繋がると。
「じゃあ先生は自分のこと愛してんのかい?」
「もちろんです。私は謙三さんのことも愛してますよ」
生前のシ村さんが「加護の会」を訪れた際も、同じことを言っていましたね。
娘の美幸は普通の食事を摂らず、土や絵の具しか食べない。
そんな美幸を心配し、妻の幸子は病院に連れていくも、治療法は見つからず。
そんな時に縋ったのが「加護の会」
「加護の会」から戻らなくなった幸子を心配し、連れ戻しに行ったシ村さん。
そんなシ村さんに、蓮田英山がかけたのが「そんなあなたを、私は愛してますよ」という言葉でした。
「あるがままの自分を愛せば、心は豊かになりますよ」
「加護の会」の教えに没頭する松シゲさん。
本の内容はそらで言えるほど、読み込んでいました。
繋がり
自分にできるのは「言葉を唱える」だけ。
もっと「加護の会」を目に見えるように感じたい、と願い出る松シゲさん。
そんな松シゲさんに、指で作った輪を2つ繋げて見せる蓮田英山。
“繋がり”を表現し、その輪を作ることで「加護の会」の家族に、松シゲさんも入れると。
輪を作りかけた松シゲさんが、ハッと気づきます。
自分のような人殺しが家族になったら迷惑が掛かる。
「こうしただ輪は作でねぇ!俺は家族じゃねぇ!」
「加護の会」では禁じられている、「指さし」で応じる松シゲさん。
第7巻に登場した「加護の会」信者の寺井さんも言ってましたね。
「指さし」は家族のきずなを破壊する行為だと。
「加護の会」に迷惑をかけるから、と家族になることを断った松シゲさんに
「妹さんと甥御さんのことを思い出してください。お2人を想い、何を考えますか?」
自分が菊子さんや国彦さんに迷惑をかけたことに、やっと気付いた松シゲさん。
「あいつだは……人殺しの家族なんだ……。俺は…とんでもねぇことを……。すまねぇ、菊子、国彦…すまねぇ……」
自分では全くそのことに気付けなかった松シゲさん。
そして、それに気づかせた蓮田英山。
「謙三さん。罪を受け入れることができましたね。やはりあなたは心の美しい人です。私はあなたを愛していますよ」
罪を受け入れるのが怖かった、辛かった。
だから他人のせいにして、家族にも平然と接していた。
ということなんでしょうかね。
拘置所で「加護の会」の教誨を受けた松シゲさんは、面会に来た菊子さんが驚くほど自分の罪を猛省していました。
被害者遺族に謝罪の手紙を書き続けた松シゲさん。
「加護の会」の教えに従い、全てを受け入れ、死刑宣告も静かに受け入れました。
黒塗りの人生史
シ村さんの刑が執行された頃の死役所。
すでに死刑が執行され、死役所で働く松シゲさん。
そこに「冤罪で死刑にされた」シ村さんが訪れます。
「娘の死の真相が知りたい!」
と懇願するシ村さんに、「こっそり」美幸の人生史を見せようとするイシ間さんですが…。
「すみません、これは……」
「え……何だあこりゃあ……」
そばで話を聞いていた松シゲさんが近づくと、二人が見ていた人生史は「真っ黒に塗りつぶされて」いました。
まるでお役所に都合の悪い資料を、渋々出してくるときのような「黒塗り」
「松シゲさん、あんたこれ知ってるかい?」
「いや、知だねぇな…」
冤罪での死刑なので、死役所職員として働く必要のないシ村さんに対し、成仏を勧めるイシ間さん。
しかし、娘の死の真相を知りたいシ村さんは、その勧めを断り死役所職員に……。
すべてを受け入れる
現在の死役所。
シ村さんは、松シゲさんを疑っていました。
美幸の人生史を黒塗りにしたのは、松シゲさんだと。
初めて「加護の会」を訪れた日から、亡くなるまで。
全てのページが塗りつぶされていました。
美幸の人生史から「加護の会」の存在そのものを消そうとしている。
死役所職員の中で「加護の会」の関係者は松シゲさんだけ。
だから松シゲさんを疑い、ことある毎に突いていたのです。
そして塗りつぶした真の原因を、「犯人が加護の会の関係者だから」
「だから黒塗りにしたんでしょう?」
より一層、松シゲさんに詰め寄るシ村さん。
「もういいじゃねぇか…」
犯人の人生史には美幸を殺したことが書かれている。
それまで待て、待てるだろ?
そう返す松シゲさんに対し、
すべての課を行き来しやすいように総合案内になり、犯人が来るのをずっと待ていたシ村さん。
同じく、松シゲさんが話してくれるのをずっと待っていたシ村さん。
旗色の悪い松シゲさんは、何とか逃げようとします。
「俺は知だねー」
「加護の会」の人間がやったのなら、それを「受け入れ」ればいい。
「“すべてを受け入れる”、そうですよね?」
「加護の会」の教えを持ち出し、松シゲさんを追求するシ村さん。
「受け入れてください松シゲさん!!このまま成仏していいんですか!?大切に守ってきた教えでしょう!?松シゲさん!!」
いつになく興奮し、声を荒げるシ村さんの言葉に、昔を思い出す松シゲさん。
『罪を受け入れることが出来ましたね。私はあなたを愛していますよ』
「け……消したってことは、そういうことだ……」
「加護の会」の関係者が犯人、ということでしょうね。
「ただ……思わず消しちまったかだ、犯人の名前は覚えてねぇ……すまねえ……」
観念し、自分の知っていることを白状する松シゲさん。
「そうですか……」
松シゲさんを追ってきたシ村さんも、松シゲさんの言葉に落ち着きを取り戻した様子。
「……長いこと悪かったな……じゃあな、先生が来ただよどしく言っといてくで」
成仏を控えた松シゲさんは、蓮田英山が死役所に来た際の言伝を頼みます。
「冤罪で死刑になった私を、松シゲさんはどう思っていたんですか?」
「受け入でど」
「自白」まで追い詰められた言葉を、シ村さんに返します。
「あなたの信仰は、極端すぎますよ……」
シニカルに笑うシ村さん……。
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