「自殺島」(作者:森恒二さん)第1巻あらすじをご紹介するもので、ネタバレを含みます。
第一話 自殺島
主人公・セイは19歳男性。自殺未遂の「常習指定」者。
自殺未遂で搬送された病院で、医師の説明を受け「ある書類」にサインします。
「我々には生きる権利が当然保障されている。しかし、当時に生きる義務もある。義務を果たさないのは、権利を放棄するということだ。この国では今、それが個人の自由意思に任されている」
次に目を覚ました時、セイは海辺に居ました。
近くには憧れの「英子先輩」のような、髪の長い女性…。
どうやらいつの間にか、小さな「島」に移送されていたセイ。
周りには自分同様、事態を掴めない人たちが多数。
そしてある看板の前に、人だかりができています。
日本国政府による看板で、「皆のIDは『死亡』という形で消滅している」「島の周囲1キロの海域において自由だが、それ以上の海域に侵入することは『領海侵犯』」というようなことが書かれています。
書いてあることを読んでも、やはり現状を理解できないセイ達。
ある者が口を開きます。
自殺未遂者の医療・社会復帰支援などの負担を国で支え切れなくなり、『当事者の自由意思を尊重する』という体で、IDを取り上げ、島流しにされるという噂が、ネットで囁かれていたと。
その島の名は「自殺島」
だとすれば、今セイの周りにいる者は、セイも含めて皆、自殺志願者……?
そんな事を考えていると、「ドカッ!」「バギィッ!」という大きな音が…。
見れば、崖から身を投げるものが次々と……。
元は自殺志願者たち。
状況や場所が変われど、彼らの望みは「死」。
しかし高さが足りず、苦しみのたうち回る者も……。
騒然とする状況に、「まず落ち着こう!一旦この場を離れよう!ここに書いてある通り、いつ死んでもいいんだよ、自由っ!」
リーダーシップを執る若い男性の勧めで、一旦その場を離れ、喉の渇きに飲み物を探すも…。

商店らしき建物を見つけ、入った店内には……白骨死体。
どうやら「自殺島」に送られたのは、彼らが初めてではなかったようです……。
第二話 乾き
喉の乾きを満たしたいが、満たす飲み物がないことを知った「自殺志願者」一行。
諦めて「あっちにしか『高台』はなさそうだから…」身投げするため、元居た場所に戻る者たち。
「山に入った方が日陰はあるし、沢を見つけられるかも」と山中に入っていく者たち。
「志願者」一行は、徐々に別行動をとり始めます。
「素人が沢を見つけるのは難しい。水源を見つける前に体力を失って、山から出られなくなる」
そう注意喚起した顔に、セイは見覚えがありました。
初めて「未遂」を起こして入れられた施設(セラピー)で出会った、セイより1つ年上の「カイ」。
セラピーに来ている人たちの相談に乗っていたカイも、やはり「志願者」。
セラピーでは医師たちに「カイはもう大丈夫」と言われていたものの……「希望を持つことに失敗」して再び未遂を起こし、この島に流されたのです。

カイの提案で海沿いを歩いて河口を見つけ、そこから遡れば飲み水が…。
「死ななかった」というよりは「死ねなかった」一行は、「死にたかった」意思に矛盾し、「生きるため」の行軍を続けます。
そして体力的にも限界が近づいたころ、一行の前方に河口が見えてきます…。
第三話 無法の夜
河口を遡り、清流で何とか水にありついた一行。
「河口を探す」ことで頭がいっぱいだった一行が次に思ったのは、「これからどうするか」
リーダーシップを執った若い男性に考えを求めますが、彼とて「志願者」、「自分の命もままならなかったのに、他人の命まで背負えるか!」
「狩猟採集」という原始的な方法しかない、というカイの意見。
「おりるのも生きるのも、すべて自己の責任…自由だ」
リーダーシップを執った若い男性「リョウ」とカイの意見が一致。
2人の握手に一縷の希望を見たセイでしたが…。

沢を登ったところに廃校を見つけた一行は、そこで眠ることに。
もともと「志願者」の集まり。
「今日」を生き延びたものの、「明日」を生きる希望が持てず、死を決意する者。
死ぬ前にやりたいことを…自らの欲求を女性にぶつける者。
「一緒に逝ってくれるなら」と、自らの身体を差し出す者。
相手の意思に関係なく、女性を犯そうとする者……。
なまじ人が多く集まったことで、廃校内はさながら「無法地帯」と化していました。
そんな中、セイが港で目を覚ました際、隣にいた髪の長い女性も、「無法者」の魔の手に……。
第四話 屋上
髪の長い女性(だいぶ後で明らかになりますが、本名「マリア」)が目の前で襲われるも、止めることのできないセイ。
割って入ったのは「リョウ」。
「自殺島は『日本の法律の外』にある島。だったら何をしても……」という言い分に対し、「オレがお前らをぶちのめして、静かにさせるのも自由」と返すリョウ。
若干「血気盛んな若者」感のあるリョウですが、根っこはしっかりした人間のようです。
止めることも、欲求を吐き出すことも、暴力で相手を押さえつけることも、どれも出来ず「何も持っていない」ことに気付かされたセイ。
気付けば外は明るくなり、自分には不要だと思っていた「明日」が「今日」になっていました。
廃校内では複数、自らの命を閉じた者が。
それらを横目に屋上に上がったセイの眼前には、飛び降りようとするマリアが。
反射的に
「だめ……!!」
「もう少しで逝けそうだったのに…」
一旦躊躇したマリアですが、セイに手を差し出し、
「一緒に逝ってくれる?勇気が…出ないの……」
手を繋ぎ、屋上の「へり」に立つ2人。
セイの恐怖・震えが、マリアにも伝わります。

「何で止めようとしてくれたの……あの時……も……」
昨夜、襲われていたマリアを止めることはできなかったものの、小さな声で
「止めろ…止めて…」
と繰り返していたセイ。
「わからない…わからないんだ……」
結局、逝くことのできなかった2人……。
第五話 ナイフ
島に着いて3日目、「生きるため」に本格的な活動を始めた「志願者」たち。
もともと有人島だった島には、漁に使う網などが残されていました。
温暖な気候を利用した農業も行われていたようで、バナナも生っています。
しかし、安定した食糧確保のためには、個々が採集したものだけでは限界があります。
カイが提案したのは「漁」。
「一人でサバイバルできる人はその方が得かもしれないけど、僕は違うから協力し合いたい」
その提案に皆が賛同します。
早速「いかだ」作りから。
民家にあった「すのこ」の下に、スチロール箱を結び付ければ、浮力が得られます。
括りつけるロープを切る道具は……セイを含め、何人もが持っていた「ナイフ」。
自らの命を閉じるために持参していたナイフを、自分が生きるために使う…。
「皆で……こうやって…何かをするのは始めてだ…」
話しかけてきたのは「タナカ」と名乗る男性。
「トモ」、セイと名乗り、握手しあいます。

「明日だ…うん、明日、頑張らなきゃ……」
その夜、誰かの足音で目を覚ましたセイとトモ。
思い詰めた表情で延長コードを持ち、廃校の教室を出ていくタナカさんでした。
翌朝、校庭の隅の木に、ぶら下がっていたタナカさん。
「明日」を迎えられなかった、タナカさん…。
第六話 ~漁~
タナカさんが迎えられなかった「明日」を生きるセイ達。
予定通り、カイ発案の「漁」を行います。
手法は「追い込み漁」。
泳ぎの得意な「リョウ」と「ミキ」が、漁に適当な場所探し。
海から上がったリョウがTシャツを脱ぐと…身体中傷だらけ。
セイの手首の5センチほどの傷とは、比べ物にならない痛々しい傷。
バイタリティもエネルギーもあり、リーダーシップを執るリョウも「志願者」。
皆と変わらないか、それ以上の「傷」を持っていることを知ります。
漁の準備を終え、廃校に戻ろうとすると、座り込む男性が。
リョウが声を掛けようと近づくと、その男性はだいぶ前に事切れていた様子。
毎日のように行われる「埋葬」。
これが「志願者」「未遂者」たちのコンプレックスを煽ります。
『自分たちは死ねなかった……』
実際に始めた追い込み漁では、何度トライしても網に魚が入ることはありません。
堰を切る志願者たちの「コンプレックス」。
「『死ねた』人だっているのに…私だって…もう…」
ミキが遮ります。
「私もあきらめてた…この知りもしない島で死ぬんだって…それでもいいって…。でも、毎日人を見送るたびに『何か…違う』って…」

セイも同じことを考えていました。
死のうとした者、死ねた者、死ねなかった者、死んだ者、そして生きようとする者。
何度目かのトライで、やっと網に魚を追い込めた「生きようとする者」たち…。
第七話 持たざる者
「生きようとする者」たちは、自ずと考え方が変わってきます。
自分たちで採った魚を食べながら、話題は「今後のこと」。
「塩が欲しい」「保存食が必要」
塩田を提案した博識な男性「スギ」を中心に、翌日は「塩田班」と「探索班」に分かれることに。
そして女性が一人、立ち上がって声をあげます。
「男性が…特に夜になると無理矢理迫ってきたり…無理矢理しようとするの…。安全を保障してくれなきゃ、私たちは協力し合えない……。
頭が良く、色々なアイデアを出すカイは、リョウに次いでサブリーダーのような立ち位置。
そのカイが「どうでもいいよ…そんなこと」
目の前の「生き死に」とは無関係な、個人的な事は当事者が解決すればいい。
極論、ここには法が無いのだから、嫌なら殺せばいい、というのがカイの持論です。
勿論リョウが反対します。
「法やら何やらは関係ない、個人的感情で許せない」と。
既に2人を中心に機能しているグループ。
2人の反目は、グループの危機に繋がります。
緊張を隠せない面々。
翌朝、リョウと共にバナナを探しに行こうとするセイですが「そんなに来てもなー」と断られます。
そんなセイに声を掛けてきたのは「ボウシ」。
「背が高く体力があるやつ、顔がいい奴、頭がいい奴。僕らは彼らと違って『持たざる者』同士、仲良くしよう…」

第八話 気力
ボウシに「痛いトコロ」を突かれ、気力を失いその場に座ったまま、動けないセイ。
座りつくすセイの前に現れたのは「シカ」。
他にも見た者がいるというシカは、捕まえられれば食糧になる…。
が、目の前でその「生気に満ちた存在感」にあてられたセイは、シカ=食糧という考えに結び付きません。
その日のセイの仕事は「探索」。
島を廻って使えそうなものを探しますが…見つけたのは「人間」。
単独で動き、食べ物を得られなかった男性は、「暴力」でセイからバナナを奪い取ります。

皆と合流すると、その男性は暴力性を隠し…本性を知るのはセイのみ。
その夜、一人手首にナイフを当てるセイ。
女性に暴力を振るう者、自分には「何もない」と言う者、自分に暴力を振るう者…。
自身の気力が削がれていく中、『動き出さなければ…』
焦りを感じるセイ…。
第九話 美しいモノ
数日の不漁が続き、急速に悪化する食糧事情。
それにつれ、グループ内の不協和音は大きくなり、「協力し合おう」と言う姿勢から、バラバラに行動することが増えていきます。
そんな中、セイが日課にしていたのは、屋上からのシカの観察。
セイは
「もう一度あの生気に満ちた存在に触れたい」
と願っていました。
マリアは
「いつでも終われると思うと安心する」
と考え屋上に来ましたが、セイの話を聞き
「そんな存在なら私も触れてみたい」
不漁による食糧難の次は、「盗難」
バナナが束ごと盗まれていました。
おそらくグループ内に犯人はいるが、それを探す策も時間もない。
食糧不足で体力が落ち、漁に出るものも少ない。
不協和音は大きくなる一方。
セイはトモとマリアと共に、食べ物を探しに。
そこで、あの「シカ」の群れを見つけます。
「キレイだ……僕らとは、違う……」

トモの一言に、セイも心の中で同意します。
『この島に生きる同じ生命のはずなのに、僕らだけが美しくない……』
第十話 その資格
「生きることのみで生きる喜びを知っている。僕ら、人間以外は……」
それが、純粋なシカの美しさであり、不純な人間の醜さ…。
その醜さは「暴力」と言う形で現れます。
バナナ盗難時、揉めていた2人の男性がいました。
その場はリョウが諫めたものの、その後本格的なケンカに発展。
一方がもう一方を、ボコボコにしたのです。
「ここにルールはねぇんだ。お互い許せなければ、最後までやるしかないだろう」
悪びれぬ男性に、リョウは返す言葉がありません。
その夜、倉庫に一人閉じこもったセイは、あるものを作り始めます。
シカを射るための「弓」です。
社会にいた頃は、死ぬことだけを考えていたセイ。
しかし今は、「生きること」を考え始めている。
『試されている…この島に…。変わること、生きること。その資格が僕に、あるのか…』

次の記事:自殺島 第02巻
コメント