李牧と龐煖
李牧が言っていた
「龐煖は、我々”人”の代表です」
という言葉の真意。
それを説明するため、李牧は龐煖と最初に会った時のことを、話し始めます。

十九年前、当時の李牧は
「”戦”に溺れた愚か者で 多くのものを失い続けていました」
今現在の落ち着き、常に冷静な李牧からは、想像もつきませんね。
戦で大敗を喫し、敵に追われ臓物を引きずりながら一人深山を彷徨い、死にかけていたその時…倒れた李牧のすぐ傍を通りがかったのが、龐煖でした。
おそらく自ら倒したのでしょう。
虎の頭を持って歩いていた龐煖は、倒れている李牧に気付きます。
「我が道を阻む者は 余さず屠(ほふ)り 土に還す」
龐煖は矛で、李牧の首を落そうとしますが、直前で矛を止めます。

自分は、親も兄弟も仲間も、すべて戦で失った。
皆、おれが死なせてしまった。
目障りなら殺すがいい。
そう言う李牧に対し、龐煖は応えます。
貴様の”役目”は まだ何も 果たされていない。
貴様らに聞こえぬ”地”の声が、俺と貴様を会わせた。
貴様は 俺の道を 答えに”導く者”だと。
いずれ分かること。
李牧 覚えておけ。
俺の名は”求道者”龐煖だ。
模を示す
目が覚めると起き上がれるくらいに回復していた李牧。
少し歩くと、李牧を追っていた敵の死体の山が…。
“求道者”とは、文字通り”道”を求めるもの。
そしてその道とは”人の救済”。
龐煖に救われた後、李牧はしばらく軍を離れ、龐煖が何者だったのか、”求道者”とは何かを知るため、放浪します。
五百年続いている春秋戦国時代より以前から、存在する求道者。
争いを繰り返す人の世を憂い、それをどうにかすべく考えた賢者の集団。
それが求道者の始まり。
が、その願いとは裏腹に拡大する争乱に対し、やり方が間違っていた、と。
この争いの世に、道を探してもそこに答えは”無い”と断定。
偏愛がある限り争いは生まれ、”情”がある限り苦しみの世は変わらぬ。
それが求道者の出した答えでした。
“情”や”思い”があるからこその「人」であるのに、そのために争いが無くならない…。
その矛盾を解くために、「人は皆、人を超える存在にならねばならない」。
求道者たちは深山に姿を消し、ひたすらその道を探しました。
まずは自分たちが、人を超える”模”を示さねばと。
その”模”を示した時、個の変化が全体にも起こり、皆が一斉に上の存在に上る。
そう考えた求道者の答え、彼らの道は、「人を超えし”模”を天に示すこと」だと。
カイネはじめ、李牧の話を聞いていた趙兵たち。
話は分かったが、理解できない、理解し難いといった様子。
「求道者が人を超えた存在になれば、我々全員が…」
「……ええ」
「龐煖…様は ただ自分が最強であることを誇示するためだけに、あの暴威をふるっているのでは…」
「それが龐煖の “道”なのです」

「求道者は彼らの中の1人でも、人を超え神に近しい領域に立つとき、我々”人”は今とは違う上の存在に変化し、争いを止め、苦しみの世から完全に解放されると、本気で信じているのです」
「そ…そんなこと……起こるわけがっ…」
カイネも、他の兵たちも何故か、左目からだけ、涙を流し始めます。
求道者たちの目的は、人の救済。
そのために彼らは、それぞれの道から人より天(たか)い存在を目指しています。
龐煖は、全てをかけて 武神にならんとする道を。
「キングダム」
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