信の怒り
前線に追い付いてきた、歩兵の尾平や崇原たち。
彼らが目にしたものは…龐煖によって斬り殺された兵や馬。
その中には飛信隊の古参・去亥の姿も……。
去亥の亡骸を見つけ、涙する尾平。
気が付くと、横には騎馬した信。
抱えられているのは、ボロボロの羌瘣……。
「尾平 羌瘣を頼む」
下馬し、尾平に羌瘣を託す信。
信もボロボロの状態。
このまま龐煖とやり合っては、信もただでは済まないはず。
信を止めようとした尾平ですが…。
「…信…?お前…」
後ろ姿で、その表情はうかがい知れませんが、尾平の言葉が止まってしまうほど、おそらく怒りに打ち震えた表情だったのでしょう。
去亥を斬り殺し、羌瘣をボロボロに討ちのめした龐煖。
「龐煖!! お前は…何なんだっ!!」
遡れば、麃公将軍・王騎将軍、信が憧れた2人の将軍を討った龐煖。
「お前は…マジでっ…何なんだっ!!龐煖!!」
信にしてみれば、自分の大事な人たちを次々奪っていく災厄のような存在。
戦そのものには関係せず、中華統一といった目的もない、ただ「武」を求め、誰よりも強い龐煖。
「お前は何なんだ」
龐煖に対して、抽象的ですが一番的確な質問というか、言葉ですね。
古い話ですが、FFⅩにもそんなセリフありましたね。
ティーダが「シン(である父親)」に対して「お前何なんだよっ」っていうシーン。
圧倒的な力を前に、人が絞り出す言葉は似通うのかもしれませんね。
龐煖とは
一方の龐煖。
信の持つ矛が目に入ります。
顔に刻まれた傷にヒビが…。
矛の向こうには、王騎将軍の姿が見えます。
同時に、咆哮する龐煖。
その場にいたすべての人馬が、慄(おのの)きます。
信を除いて。
龐煖の矛の激しい一撃が、信をとらえます。
矛の柄で防いだ信は、勢いで趙軍兵の間に吹き飛ばされます。
「そ奴を刺し殺…」
言いかけた趙兵ごと、信に斬りかかります。
正確には、信に斬りかかったら「たまたま」趙兵がいた。
或いは、趙兵がいることにも気づいていない、龐煖には信しか目に入っていないのかもしれません。
趙兵も秦兵も、その様子に驚愕します。
女だてらに最前線で戦う、カイネでさえも。
「…李牧様 い…今更ですが 龐煖…様は…本当に…何なのですか一体…」
カイネも、疑問をそのまま李牧にぶつけます。
ただ一人、眉一つ動かさず龐煖の戦いを見守る李牧。
「言っても信じないと思いますが」
と前置きしたうえで、
「龐煖は、我々”人”の代表です」
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